ベンチャー・成長企業の採用戦略と戦術

ベンチャー企業・スタートアップの採用戦略は、多くの場合、企業全体の成長戦略と直結しています。

近年のトレンドである上場を目指す技術ベンチャーなどの場合、資源の観点からは、①出資を受ける→②人材を採用する→③計画を達成する、というサイクルになっていることが多くあります。

②採用が③計画達成の前提となっており、①出資の説明責任に還流するため、採用戦略が狂うと事業と資金調達の逆回転が始まりかねないのです。

募集よりも選別眼に課題

大企業を含め、世の中の企業全般を見渡すと募集プロセスに課題があります。

ビジネスが伸びているベンチャー企業の場合、人材募集をかけると比較的集まりやすい条件は揃っています。

ベンチャー採用の本当に難しい点は、接点の創出よりも選考プロセスにおける人物見極めにあります。

大手企業に比べて、バッファーとなる代替人材も手薄で、また事業ダメージの吸収余地にも乏しいため、採用ミスへの耐性が低いのです。

成長計画を守れなくなるだけでも痛手ですが、採用責任をとって事態の収拾をはかるのも社長という展開になりがちなため、成長フェーズの採用には緊張感が伴います。

成長企業の特徴:多彩な要職と大量採用

成長フェーズの企業では、採用先行で組織作りが進むため、多彩な部署のマネージャークラスの採用が活発に行われます。

この過程で先々の幹部候補も形成されることが多く、良くも悪くもその先の数年スパンの企業のかたちを決めることになります。

また、成長計画の重要な施策の柱として営業チームの増員スケールアップが採り入れられることも多く、要職の採用と並行して、現場担当者のタイムリーな大量採用も重要なテーマとなります。

マネージャー採用は人格面も見逃さない

マネージャー採用については、採用を機にそれまで社内になかったスキル・知見を”輸入”したい、という取り組みになるため、スキルチェックも難易度が高くなります(持ち合わせていない能力を求める難しさ)。

多くの場合、大企業からの転職組を迎えることになりますが、ベンチャーで自律的に活躍する人材を見極めるためには人格面のチェックが特に重要です。

当社は、アカデミックな定評のある主要5因子(Big-5)をベースとする 性格適性検査「Decider」 を開発・提供しています。Deciderは仕事の基礎スキルに加えて幹部適性も客観的にスコアリングします。

Big5を前提とする一般論に従えば、要職マネージャーの特徴として、知的スタイルが”知性派”寄りの方が好ましいと言えます。

知的スタイルはIQとも連動しており、変化に対する適応力や思考の自律性に関わります。

早慶クラスでもベンチャー幹部としては通用しないケースも多いため、安易な学歴採用は危険です。

一般的な面接選考の場合、単に外向性の高い人物が良く見えるバイアスがかかるので注意します。

ベンチャーの活力を支えるために外向性が高めなことは有利ですが、隠れメンタル傾向や石頭傾向を見抜くことがポイントとなります。

そのために、パーソナリティテストのような対照ツールを導入することと、面接も実事業を題材とした具体的な戦略ディスカッションを経ることが有効です(経営トップが時間を割いて関わることが必要になります)。

ディスカッションの過程でアウトプットの少ない人、話の具体性の乏しい人は避けましょう。

ミンツバーグ教授は『マネージャーの実像』で、そのマネージャーの欠点を許容できるかどうかが重要と主張しており、多面的な評価が欠かせません。採用プロセスで隠れた面が残ると後から後悔することになります。

現場採用は欠員補充に妥協しない

また、現場採用による規模拡大策の戦略では、定着を意識した採用プロセスが何より重要になります。

事業計画は所定の時期に目標の営業マンの頭数が揃っていることを前提として組むことが多いため、採用が未達に終わると営業の実行段階から早くも未達になってしまいます。

「ベンチャーだから離職率は高い」という意識になってしまいがちなのですが、欠員補充に頼る発想は言い訳に過ぎません。採用ペースにも上限はあるため、現場が辞め行く会社は結果としてチーム組成が完了しません。

採用後のチーム定着に現場のマネージャーがコミットすることは見落としがちですが重要なポイントです。

また、採用面接の際に会社のハードな面を応募者に対して説明し、それでも入社意思があるかどうかを確認することも有効な策となります。

組織行動学のスティーブン=ロビンズによると、候補者から見て厳しい面を説明した企業の方が「誠実である」と感じる割合が多く、結果として入社後の定着率が高い傾向があります。

また、局面別の戦術としては、拡大着手当初の20代が不足する段階では、人材エージェントの活用や非正規雇用組からの正社員登用も有効です。

20代後半層が形成されてきたら新卒採用に移行することで、より効果的な大量採用が可能になります。

(「 新卒採用の戦略と戦術 」で詳細に解説しています)

まとめ:成長期の粗製乱造を避ける丁寧な採用

ベンチャー・成長企業では、出資ファンドとの関わりから、事業計画の達成が時間との戦いと言えます。

組織作りが雑になってしまうと、諸事に手戻りが発生し経営者の時間資源を奪われるため、一手一手の採用を確実に進めることが重要になります。

とくに採用面接のバイアスによる見落としを予防するため、 パーソナリティテスト「Decider」 の導入を推奨しています。