転職 迷場面・珍場面vol.1 〜熱意だけで奇跡の逆転内定を勝ち取った応募者の話〜

中途採用は転職というひとりのヒトの人生を大きく左右するタイミングが故に様々なドラマが隠れていたりします。そしてそのドラマの中には良くも悪くもみなさんの転職活動に参考にできるものが数多くあります。本シリーズではみなさんの転職活動に活きるかもしれない名場面・珍場面を元採用責任者が当時を振り返りお贈りします。

初回は 「熱意だけで奇跡の逆転内定を勝ち取った応募者」 の話です。諦めない姿勢が普通では考えられない結果を掴み取った希有なケースとしてお読みいただければと思います。

採用担当者も肩入れしてしまうことがある

Aさんは私が採用責任者をしていた時に転職エージェント経由で応募してきた方でした。

履歴書は可もなく不可もなく、職務経歴としてはバッチリ即戦力として活かせるものが特になく、また20代後半で2社経験しており、短期間での離職が少し気になったこともあり社内の同意を取っていくのは少し難しいかもしれないと感じていました。

ただし、中途採用の状況的にはいい人がいればいつでも採用したい、という積極採用のタイミングでもあったので「まあ、会ってみてもいいかな。人物的に良かったら考えてみよう」という程度の気持ちで面接を行いました。

Aさんは会ってみると、常にニコニコと笑顔で受け答えをする営業マンでした。過去の経歴を聞くと、普通の人であればくじけてしまいそうなシーンでも笑って乗り切っていけるバイタリティ、辛い経験を自らの成長につながるというスタンスは非常に好印象を残しました。

何より当時採用していた会社の事業に対する興味関心は非常に強く、何が何でも面接に受かって働かせてもらいたいという意欲が伝わってきた方でした。

私が働いていた会社は人気職種でもなく、またベンチャー企業でもあったため事業に対して高い意欲で「どうしても入りたい!」という応募者にはなかなか会わない会社でもあり、当時採用責任者であった私からすればなんとか採用してあげたいなぁと思える愛嬌あるいいキャラクターで、気持ち的には勝手にAさんの味方をしたくなってしまっていました。

一方で、我が強い面と竹を割ったような性格で即決即断タイプでもあったため受け入れられないことが社内で起こった時に短期離職につながってしまう恐れもあるなと悩ましい側面もありました。

基本的に採用に関して社長に推薦する際には「この人は良いから是非取ろう!」と自分の中での意思決定ができている状態になっていることが大半でしたが、珍しく「面白い人材ではあるけれど職務経歴、性格的な側面ではリスクもある」という判断が付いていない状況で社長に会ってもらうことにしました。

お見送り(不採用)をお断り!?

Aさんは社長面接でも堂々となぜこの会社で働きたいのか、何が貢献できるのかをアピールしましたが社長としてはAさんの笑顔が「なんとなくどこかうさん暗い部分があると感じた」ということで非常に悩んだ様子でした。

(これは社長あるあるなのですが**社長と呼ばれる人は「なんとなくいや」という直感で採用するかしないかを判断することが往々にあります。**そのため面接の全体的な印象で合否を判断する人種であるということは豆知識として知っておくと良いでしょう。)

社長は普段は面接後すぐに結論を出す人でしたがことAさんに関しては1週間ほど悩み、周囲の役員にも意見を聞きながら結局見送ろうという結論を出してきました。

私は個人的には好印象な面も多分にあったため、残念な気持ちでお見送りの連絡をエージェント経由でお伝えしました。採用責任者として自分がいいなと思っていた人に対して落選の連絡をするときには辛いものがありますが仕事は仕事です。

そして何事もなく数日が過ぎた時、Aさんを紹介してくれたエージェントの方から電話がかかってきました。「また新しい応募者の人を紹介してくれるのかな」と思い電話に出てみると、それは思いもかけない内容で

「Aさんがどうしても入社したいからもう一度社長に会わせてもらえないかと言っている。それでダメだったら諦めるのでなんとしてでも会いたいと言っている。」

という話でした。

Aさんは企業から受け取った不合格通知を受け取らずダメ元で再チャレンジしてきたのです。

採用の仕事をやっていて初めての出来事だったので面食らったのを覚えていますが個人的には好印象だったこともあり、社長に掛け合うと、「他の役員にも合わせてみよう。その上で自分も会う。」という回答をもらうことができました。

Aさんには他の役員と面談を行い、その上で社長にも再度あっていただきました。しかし会社として出した結論は結局NG。やはり即戦力として活躍いただくのは難しいという判断が下されました。残念ですが一度下した結論は覆らなかったのです。

しかし、Aさんのバイタリティが発揮されたのはこの後でした。
なんとAさんはもう一度社長に掛け合いたいと言ってきたのです。

熱意がひっくり返した社長の決断

ここまでくると社長としても若干面白くなったのか、会ってみようじゃないかという話になり、面談の場が開かれました。

そしてAさんは再三再四伝えているどうしても入社したいという思いをぶつけてきました。
時間にして15分ほど。Aさんは伝えられるだけの熱意を伝えきり、場をセットしてもらったことに対して感謝の気持ちを述べてすっきりした表情で帰って行きました。

社長は面談終了後私と話をしている時に数分悩んだのち、

「あそこまで言うのであれば分かった。OKだ。会社としても人員を増やそうと考えている時期でもあるし内定を出そう。ただし、勤務地は東京ではなく、支店の●●。そして給与はAくんの前職の年収関係なく新卒よりも低い●●万円だ。この条件で彼に伝えて、条件を飲めば採用しよう。」

と言いました。

なんと2度断られたのちAさんは内定を獲得したのです。Aさんの熱意が社長を根負けさせ、決断をひっくり返したのです。

ちなみに社長が自らの決断をひっくり返したのは後にも先にもこの一度きりでした。

社長から出された条件はそれなりに厳しいものでしたがもちろんAさんは快諾しました。そして無事入社し今では中核社員として活躍をしています。


この話はもちろんよくあるケースではありません。
しかし、諦めない気持ちと熱意が奇跡を生む可能性を秘めていることを示唆するものでもあると思います。

また、中途採用というのは会社の採用の状況や面接をした人の気持ちによって結論が決まるものであり、意外にも結論が流動的だったりすることもこのケースからお分かり頂けると思います。(面接対策全般については「 【元人事責任者が教えます!】転職面接対策―質問・回答集から学ぶ極意― 」にまとめていますのでこちらもご参照ください。)

皆さんも希望していた会社からお見送りの連絡を受けた時、ちょっとした勇気を持って行動すると、意外にもチャンスは目の前に転がっているかもしれませんよ。

次回は「緊張が面接の雰囲気も凍りつかせてしまった応募者」のお話です。お楽しみに。