ていねいに分かるビッグファイブ

ビッグファイブは、性格分析の科学研究では圧倒的なスタンダード指標です。
それは研究リサーチの数を比較すれば一目瞭然です。

リサーチランク:ビッグファイブ,MBTI,ストレングスファインダー,SPI,YG

性格を16種類に分類するMBTIは、この分野では比較的よく研究されている分析手法と言えます。日本では亜種の16パーソナリティ診断が知られています。
つづくHEXACOはビッグファイブの亜種で、ほかストレングスファインダー、SPI、YG性格検査と健闘している手法でも相当マイナーになります。
ほかにも無数の独自手法が生まれてきましたが、アカデミックな研究リサーチは相対的にゼロ水準です。

ビッグファイブはone of themではない

ビッグファイブは、次点のMBTIと比べても、130倍程度の研究の厚みがあります。文字どおりの桁ちがいです。
これだけのボリュームを積み上げた理由は、単に心理学のスマッシュヒットとなっただけにとどまらず、社会学や医学の分野の基礎的な手法としても使われてきた実績によるものです。

科学分野では既にツールとして浸透している段階で、将来のある時点で教科書に載る理論と言えます。
教育コンテンツへの採用が立ち遅れているいまは過渡期であり、現役世代のビジネスパーソンは相対的に不勉強な状況になってしまっています。

血液型と12星座は否定されている

先ほどの研究ボリュームに、血液型と性格の研究187万件、12星座占いと性格の研究2.8万件という項目を引用しています。
血液型と星占いはとてもポピュラーなため研究の数も多いのですが、いずれも研究結果は、ほぼ一様に「性格とは関係ないことが分かった」という報告が積み上がっています。

これは「血液型や生まれ日が何かを支配するほど世の中は単純ではない」ということを示唆します。
マスメディアが長い間エンターテインメントとして放送し続けてきた影響で、なんとなく血液型や星の巡りの影響を否定しきれない人も多くいますが、丹念な研究にのおかげで全く無意味な考えであると切り捨てられます。

血液型や星占いは誤った考え方ではあるのですが、多くの人が陥りやすい問題点を明らかにしてくれる点で重要です。
それは、「分かりやすい考え方を欲しがる」というクセです。誤りであったことを考慮すると、悪癖と言えます。

血液型はA,B,O,ABの4種類、12星座はおひつじ座〜うお座まで12種類と、少数のカテゴリーに分類しています。
「分かりやすい」理由は、数が少ないから扱いやすいだけではないでしょうか?

これを機に、分かりやすいということに大きな疑問を持ってもらいたいと考えています。

少し考えれば分かることですが、少ない分類で適切に理解できるのは、その対象が本当に簡素であった場合に限られます。
対象が複雑なのであれば、簡素化するほど間違った理解に陥るのは当然なのです。

科学がたどりついた分析方法

陥りがちな失敗を確認したところで、800万件超の研究が採り入れてきた正しい方法論に戻りましょう。
もちろん、適切な指標に沿ってきめ細かく分析することが大事、という話です。

ビッグファイブの要素は、誠実性・神経症傾向・知的好奇心・外向性・協調性の5つです。
5つ発見したので、ビッグファイブと呼ばれています。

ビッグファイブの5特性:信頼性、情緒安定性、知的好奇心、外向性、協調性

それぞれの因子については、 ビッグファイブとは?性格モデルを徹底解説 で解説しています。
5つではありますが、血液型の4種類より1つ多いとか、12星座よりも7種類少ないと受けとるのは間違いです。

ビッグファイブは5種類ではなく、5次元なのです。

これは、緯度・経度を使うと地図上で世界中のどこでも表わせることと同じです。
地図は緯度と経度で2次元です。

5大陸(アメリカ・南極・アフリカ・ユーラシア・オーストラリア)、7大洋(北大西洋・南大西洋・北太平洋・南太平洋・インド洋・北極海・南極海)が指す対象と比べると理解しやすいでしょう。

現実世界の空間は地図平面に高さを含めて3次元。SFでは時間軸にも空想をくわえて4次元のフィクションを創り出しています。
未来から誰かが自由にやって来られるという設定がつけ加わると、予想外のストーリーが展開します。
12星座にへびつかい座を追加するという議論との自由度の違いを想像してみてください。

ピープルアナリティクスはビッグファイブ

そして、人のキャラクターは私たちが直観している時空間よりも本質的に複雑なものなのです。
そのため分析方法は、A〜Eランクのような簡略化した表現による歪曲を避け、数値を直接見比べることによって対象を理解する方法になります。

Webアナリティクス(アクセス解析)と同様の分析手法であるため、ピープル・アナリティクスとも呼ばれます。

ただ、複雑なもの=理解できない、と思うのも誤りです。

たとえば、自動車やバイクには、速度・エンジン回転数・燃料を示すメーターがついています。
これらは3次元の数値を表示していますが、誰もが教習所で習うことですから、メーターを読めない運転者などいないでしょう。

つまり高次元のできごとを理解する際、それを直接知覚することは難しいものの、ツールで計測したスコアを読みとることは何も難しくない、ということです。

また、ビッグファイブは人が知覚しているものをそのままスコアリングしているため、Web解析などと比べてはるかに直感的です。
たとえば、外向性が90/100といったスコアは「元気いっぱいでエネルギーに満ちあふれている」状態を示し、本人を見れば一目瞭然です。

“攻略"対象のない指標

性格の分析には、“偽りの性格"問題がつきまといます。

性格適性検査はオンライン採用ツールにも使われることから、対策サイトや替え玉受検といった不正行為も横行します。
ツールの中には、正解が分かりづらいことをPRするものもあります。

この点についてビッグファイブを追跡する過程で、Decider®は全く異なる結論に至りました。

まず従来の問題の最大のポイントは、正解が収束する前提に立っている点にあります。
言い換えれば、良い/悪いが定まる想定、もっと言えば「100点満点は良い点である」という先入観に毒されている、ということです。

ビッグファイブは、ある種の座標を提供するものであるため、100点は良い得点を示すわけではありません。
そしてより本質的な点として、分析の結果「何かに適しているということは、すなわち何かに適していない」というトレードオフ構造があります。

そもそも個々の企業の働く環境・条件が大きく異なる以上、企業ごとに適したパラメータセットもまた発散します。
ピープル・アナリティクスは探索行動ですから、採用基準は状況に応じて動的に変化するものです。

そのため、ビッグファイブについて何か偏ったアドバイスを見たなら、それは端的に誤情報と言い切れます。

またビッグファイブは定義上、科学研究が抽出した「人が知覚しやすい」指標ですから、面接官もまた直接見た印象から知覚しています。
「印象が異なる」ということは人であれば誰しも備えている感受性なので、替え玉受検にも素朴に気づきやすい方式なのです。

テストというと何らかの正しさを測っているような気になる、ということ自体が根ぶかい錯覚です。

ビッグファイブのメリットとデメリット

「分かりやすい」ことが正しいと感じるのは錯覚であり、その錯覚のために血液型や星座占い、A-Eといったランク付けの過ちに陥ってきた経緯を説明しました。

ビッグファイブは、人の言葉に埋め込まれた錯覚を統計分析によって再定義することで、もともと人が知覚しているキャラクターを取り出すことに成功しました。
客観的な安定性という正しさが、ビッグファイブのメリットです。冒頭のリサーチボリュームが示すとおり、従来の仮設の多くが過去のものになりました。

ビッグファイブ理論はいずれ教育に適切に組み込まれるべき基礎的な概念と言えますが、教育は進歩が遅く未整備なため、誤った説明が多く流通しています。
ややこしいことに、ビッグファイブは正しい概念として多くの学者から支持されているものの、アカデミックな研究から出ると正しさを著しく欠くビッグファイブの説明が広まっている状況です。

過渡的なデメリットとして、ビッグファイブに対する誤解があります。
ビッグファイブそのものの問題ではなく、読み手が不勉強である点が限界を迎えているのです。

ステルスマーケティングに対する自衛と同根の話題になってしまいますが、とくに運営者を隠蔽しているもの(メディア名そのものであったり、組織のように見えるニックネーム)については、セキュリティリスクにも十分注意してください。

誤情報にもとづくサービスには利用価値はありません。

より良い社会を直接デザインする

性格は、できる事とできない事に根元的な影響を与えるため、集団の役割分担に活用する方が適しています。
結論的には、ビッグファイブに依拠してチームビルドをデザインできるようになったとも言えます。

もちろん、個々人が特徴を理解して得意なことを活かすための指針も定まります。
しかし、自分が性格的にできないことであっても、顧客や市場、社会は「できない」ということを許さず、個人レベルで解決できることは多くありません。

ビジネス競争など社会にはどうしてもやらなくてはならない仕事が沢山あり、チームワークによるべき解決の方が多いのです。
また、同じやるにしても、うまくやるほどリターンが大きくなります。

企業やチームの中に「できる人がいる」状態をデザインすることが、メンバー全員が生き延びるための最短ルートです。

たとえばビジネスの場合、言い訳のきかない役割は、たとえ創業者1人の個人スタートアップであっても10種類を下回ることはありません。
起業家が強いストレスにとり囲まれることはよく知られた事実ですが、これは10人分の役割から逃げられないことに由来します。

少なくとも10人程度の適材を採用するまで、不得意な仕事に追われる展開は続きます。
典型的な症状として自責の念にかられることになりますが、そもそも見当違いなのです。自分の中に原因を求める限り出口は見出せません。

また、事業規模が大きくなるにつれて役割は増えていきます。
「人が増えるにつれて役割が増える」ととらえてしまうのは、よくある初歩的な誤認で事実は逆です。

売上が増えるとき取引先との約束もまた増えていて、それが役割が生まれる典型的な瞬間です。
その役割をできる人を割り当てられればスムーズに成長し、できなければ既存の従業員が起業家と同じ苦しみに陥ります。

人を見誤る原因をとり除く方法

役割デザインにあたって、人は暗黙のうちに性格判断を使っています。
他人どうしがお互いに理解し合っている情報は性格そのものだからです。

性格に着目すること自体は適切ですが、知覚のズレと表現のズレの相乗効果による誤謬効果が従来のネックでした。
「やさしい」「包容力のある」「地頭の良い」など性格を表現する用語は無数にありますが、そういった大多数の用語にぴったり対応する性格は存在しないと示したのもまたビッグファイブの研究成果です。

一般的に言語化は概念を明確にする決定的なツールととらえられているものの、性格分析については言語化に頼ることが原因で誤るのです。
全くの幻想ではないのですが、意味のバラつきによって伝言ゲームが生じたり、適切に表現できたように錯覚することを通じて誤認します。

ある意味で言語に内在するバグであるため、体系的にビッグファイブをスコア計測して対照してみるまで、知覚のズレに気づくこともありません。

チーム内で何かがうまく行っていないのであれば、役割にフィットしたキャラクターを配置できていないシグナルです。
多かれ少なかれ、どの組織も起業家と同じ病に陥ります。

ビッグファイブは、このような堂々巡りに終止符を打つ根拠になります。