年収1000万プレーヤーへの転職(8) 社長・役員・取締役編

エグゼクティブの報酬水準は1000万円を大きく超える

社長をはじめとする経営者は企業トップエグゼクティブを務めることもあり、原則として報酬も最高水準に設定しているケースが大多数といえます。

スタートアップや赤字企業をのぞけば、多くの企業で社長・役員の報酬は1000万円を大きく上回っていると考えられます。

経営者の報酬水準が高い理由

社長をはじめとする取締役の報酬が高額になるのは、仕事の内容が高度であるという素朴な理由以外に、以下のような要因もあります。

  • 勤務していなくても仕事の実態として24時間365日、臨戦態勢を強いられる
  • 取締役には、法律で従業員より強い義務と責任が課されていて、有事の際に責任を問われる。とくに常勤役員は責任限定契約も認められていない
  • 取締役は原則として従業員ではなく、任期が終わると即解任される可能性がある。従業員兼務でない限り雇用保険の適用もない
  • 税法の制約により年度内は実質的に報酬額を変えることができない
  • とくに中小企業の場合、会社の契約に社長個人が連帯責任を負わされているケースが多く、じつは有限責任ではないことが多々ある
  • 所得税が累進課税になっているため、極端に業績と連動させて高額の賞与を払うことが不合理になっている

つまり社長・取締役については、従業員とは働き方の土俵がまったく異なるため、一般的な役職や職種と比較することができないのです。

大企業では年俸3000万以上の役員職も多数設定されていますが、そもそも任期も数年程度に限られることや、報酬の大部分は40%以上を所得税で納めることを考えると、1000万プレーヤーと比べてそれほど破格に高いとは言えないことが分かります。

企業存続のためには優秀なプロ経営者が欠かせない

以上のように、そもそも数千万クラスの報酬水準がないと経営者を務めることが割に合わないという事情があります。

過去の歴史上の王国と同じように、企業が順調に存続するためには経営者が優秀であることが必須です。ミドルマネージャー以下の現場がいかに優秀でも、トップが誤った決断をくだした場合、その組織は高速に間違った結果にたどりつき危機をむかえることになるのです。経営者の手腕はミドルマネージャーまでのスキルの延長だけではなく、ある種の超人的な能力も求められます。

市場環境が変化しないのであれば意思決定は重要ではありませんが、現実には世の中はつねに動いていて市場ニーズも競合他社の状況も変わっていきます。その間に、経営者ポジションに空白が生まれてはいけないのです。

創業から最長で数十年の間は創業オーナーが運営し続けることが可能ですが、いずれ後継社長が必ず必要になります。

そのとき、後継の経営者に支払う対価は原則として金銭的な報酬である必要があります。世代交代まで健全に運営してきた上場企業であれば、有事の際にも自己資本を原資にしてプロ経営者を雇うことができるため問題ありません。

もちろんその会社が経営人材をひきつける魅力をもっていることも重要ですが、少なくとも手が打てないという状況にならないことが重要です。

非公開企業の難題「事業承継」

企業が100年以上存続していくためには、いずれ高水準の報酬で雇うプロ経営者またはサラリーマン社長が必要です。

世代交代にあたり難しい問題を抱えるのは、創業オーナー一族が過半の株を保有しているような非公開企業です。

これは一般的に事業承継問題として、全国の中小企業の大きな課題となっています。

創業オーナーの子供が優秀で意欲に満ちていればシンプルに世襲で存続できますが、世襲のリスクは広く知られているとおりで不安定な選択肢です。

未上場の非公開企業の場合、株に流動性がないため理論的な株価はあるものの、市場価値としてはゼロということもでき、ストックオプションなどの設定ができません。

また、相対的に現金の蓄積が上場企業に比べて乏しいことも優秀な経営者をひきつけるための直接のネックになります。

多くのケースでは創業オーナーが保有する株を親族で相続するにあたり多額の相続税がかかります。この相続税を納める原資も会社資産ということになりがちですから、ストレートにオーナー企業が相続を迎えるとそれだけで企業資産は目減りします。また、企業に思い入れのない遺族が株の買取りを請求するようなケースもあり、恣意的に現金流出する危険がつきまといます。

そしてオーナー企業では経営者の人事権を大株主が握ることになり、経営権が不安定になることも企業の経営力を削ぐ要因になりがちです。

老舗の大企業にも、日常的な経営を越える意思決定には創業一族が影響力を行使するというケースがあります。

このように事業承継の問題をクリアできずに積み残すと、ビジネスが堅調であっても企業競争力が弱体化する要因となり従業員にとっても困る事態が起こり得ます。

けっきょくのところ、代々の社長・役員が高額の報酬を受け取れている状態の方が企業の健康状況としては健全、ということになるのです。

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