ダイバーシティの一般的な解釈は、デモグラフィックなマイノリティをどれほど寛容に受け入れるか?という観点の「多様性」を指しています。
日本では、女性や性的マイノリティ(LGBTQ)がテーマになりやすいのですが、国際的には人種の違いがまず第一に焦点になります。
多くのダイバーシティの議論の問題は、なぜ多様であれば良いのか?という根本的なメカニズムに説明がないか、または雑駁であることです。
経営学の考えるダイバーシティの意味
ダイバーシティがビジネスにどう効くのか?という点は、経営学でも数十年来のテーマになっています。
基本的なストーリーは「多様性のある組織の方がイノベーションが起きやすい」という期待であり「ビジネス環境が変化しても生き残りに有利である」という仮説です。
ただし、1点修正しておくべき大前提があります。
それは、経営学が計測している多様性は"functional diversity"(機能の多様性)であって、デモグラフィックな多様性ではないことです。
職種や経験・スキルといったビジネス機能の観点で多様であることがポイントなのです。ある仕事が得意な人が豊富にいた方が解決に近づく、と考えればダイバーシティの効果は自然に理解できるのではないでしょうか。
デモグラフィックなマイノリティを増やすと業績が上がる、といった研究は、少なくとも主流のものでは存在しないでしょう。
中間的な結論としては、経験・スキルの観点で多様なチーム組成を心がけているのであれば、経営学の考えるダイバーシティ・マネジメントには沿っている、ということです。
日本の課題は、機能を見ることなくマイノリティを排除しているのではないか?という点であり、実際にそのような組織なのであれば次元の低い話です。
それを裏返して「マイノリティを排除していない」という状態はスタート地点であってゴールではないことには注意が必要です。
中小企業はダイバーシティを確保できるのか?
ダイバーシティを素朴に解釈すると、たくさんの人材が必要になります。
たとえば1人で起業した場合を想像すると、自分しかいないわけですからダイバーシティどころではないでしょう。
相対的に人数の少ない中小企業がダイバーシティを考えることの難しさも同様です。
ところが、経営学のダイバーシティ研究も進化しています。
ダイバーシティは、従来の"interpersonal"(複数の人の間の異質性)に加えて"intrapersonal"(1人の人が異質な見方を備える)の2つに分けられる、という研究分野があります。
“一人でもできる"イントラパーソナル・ダイバーシティとして『世界標準の経営理論』(入山章栄著、ダイヤモンド社)も注目している概念です。
マギル大・スタンフォード大・UCBの准教授による共同研究(※)では、知的創造に貢献するのは"intrapersonal heterogeneity”(一人ダイバーシティ)という結果になっています。
また、複数のメンバー間の異質性(一般的な意味のダイバーシティ)が増えると生産性が下がることが知られていましたが、この研究はそれも定量分析で支持しています。
このことから、日本で巷間いわれているダイバーシティ推進を雑にとり入れるとパフォーマンス低下リスクがあることと、中小企業であってもビジネスに効果的なダイバーシティ確保にやりようがあることが分かります。
※ Corritore M, Goldberg A, Srivastava SB “Duality in Diversity: How Inrapersonal and Interpersonal Cultural Heterogeneity Relate to Firm Performance”, 2020
一人ひとりの資質が大事な時代になっている
ダイバーシティのビジネス面の意義を確認してきました。
経営学の進捗を考えると、世間の理解には相当の乖離があります。
多様な見方ができる人材が本当に重要である、ということがダイバーシティ研究の最先端の知見です。
同時に、狭い見方に固執する人を集めても烏合の衆にしかならない、ということも分かってきています。
じつは物の見方の多様性は、
ビッグファイブ
に基く性格分析により計測できます。
人間の基本的な5つの性格のひとつに「知的好奇心・開放性」があり、個人ごとに大きな差があります。
失敗しないダイバーシティを着実に推進したい企業には、ビッグファイブの組織分析ツール Decider®で自社分析や採用段階のチェックを実施することがおすすめです。
Cover Photo by David Everett Strickler on Unsplash