タレントマネジメントは、誰がどのような資質やスキルを持っているかを識別して、配置・昇進・育成を設計する経営手法です。長い目で見ると組織づくりそのものと言えます。
すべての企業に欠かせないタレントマネジメントとは
タレントマネジメントには様々なテーマがありえますが、あらゆる企業にとって最も重要な課題は、トップマネジメントのパイプライン形成です。
当然ながら、すべての企業は経営者を欠くことができません。自然人には寿命があるため、世代交代の連続性が中心テーマになります。
世代の連続性は、かんたんな計算でモデル化できます。たとえば、22歳で新卒入社し、65歳定年退職する企業を考えたとき、生まれ年の分布は44年分存在します。
44年を5歳ごとに区切れば8.8世代ある計算ですが、より簡単かつ多少手堅く見積もれば10世代あると概算できます。
従業員1,000人の比較的大きい企業で1世代あたり100人、従業員100人規模の中小・ベンチャー企業では10人程度の世代の中に、未来の経営者が含まれている必要があるのです。
このパイプライン形成がうまく行かない場合、部門長クラス・部長クラスのボトルネックや不祥事の顕在化で気づくケースが多いものの、地盤沈下が進行しているほど立て直しは大変になります。
経営に必要なタレントとは
経営者に求められるコンピテンシーを結論的に述べると、不確実なビジネス環境で目的を見出し、達成する実行力です。
理解しておくべき背景は、持続的な競争優位性の消失です。中国は2010年に日本を抜いてGDP2位に成長しています。経済のグローバル化による競争激化によりビジネスモデルの寿命が短くなっています。
その結果、事業継続のためにはより頻繁に創業・新規ビジネス立ち上げが必要となり、経営者のコア能力としてアントレプレナーシップ・起業家精神が注目されているのです。
この視点は、人事マネジメントに先進的な取り組みを持つ企業や、経営学研究の一致したトレンドですが、どの企業でも組織課題を整理していくとリーダーシップやアントレプレナーシップの不足に行き着くと考えられます。
アントレプレナーシップをどのように確保するか
あらゆる企業にとって最重要なタレントマネジメントとは、アントレプレナーシップのパイプライン形成であることを確認しました。
すでに多くの企業で、マネージャー向けにアントレプレナーシップ育成やリーダーシップ育成のプログラムが導入されています。
しかし、アントレプレナーシップやリーダーシップは育成できるものなのでしょうか?
GEやデュポンなどの組織プログラムを牽引したラム=チャランは、「「CEO細胞」を持つ人材を、若いうちに見つけ出す」ことを強調しています(『CEOを育てる』)。「そうした才能や個人的特性が天性のものかどうかを議論しても無駄だ。現に若い頃に発揮し始め、会社に入る頃には自分のものにしている人が存在することは、誰もが知っている。」「才能のない熟年者にそうした資質を移植することはほとんど不可能」と説明します。
新たなタレント分析軸としての性格特性
一方、経営学の研究では、起業家やシニアマネージャーの人物像が特定されています。 ビッグファイブの特定により性格特性が標準化されたことで資質を特定の偏りを持つパラメータセットとして記述できるようになったのです。
Decider®(ディサイダー)は、これらの知見にもとづき「マネジメント・インデックス」機能を実装。 人間には難しい5次元のパラメータ分析を実行し、分かりやすいスコアとして提供しています。
また本機能開発を通じて、以下のような発見が新たに得られています。
- 1人で完結できる能力をもつ起業家は、企業の数よりも圧倒的に少ない。また企業に定着しない可能性も高いため、結果として100%適合する起業家が企業トップになるシナリオは現実的ではない
- 企業が形成すべき次世代タレントは、起業家タイプから1軸程度のスコアがずれたタイプである
- 企業のマネージャーは、起業家と比べると何かひと味不得意な点が残るため、経営チームで補完することが安全策となる
- 多くの職種で、現場に適した人物の性格セットとトップマネジメントに適した人物の性格セットは一致しない
以上のことから、アントレプレナーシップ確保のためのタレントマネジメントとは、現場採用の基準とは別に幹部組成のための人材プールを継続的に確保し続けることです。
そのためには、ビッグファイブにもとづく社内アセスメントを通じて、世代別の性格タレントの分布を客観的に可視化することが必要です。
タレントマネジメントには他にもイシューがありますが、特別な理由がない限り継続性のある幹部組成が主目的と考えるべきでしょう。
Cover Photo by Lou Levit on Unsplash