部下指導の悩みと治療・予防

部下の成長が見られない、ということで悩むマネージャーは多くいます。自分の指導が悪いかのように思い込みがちですが、部下のメンタルに原因がある可能性もあります。

知られざる統合失調症

職場のメンタル不調では、うつ病が広く知られていますが、メンタル不調は鬱以外にもいくつかのパターンがあり、統合失調症も1%程度は存在していると言われており隠れてポピュラーな症状と言えます。

統合失調症の陽性症状は幻聴や妄想ですが、このような精神病的な症状の出ない陰性症状があります。

陰性症状では、集中できない・物忘れがひどい・意欲が持てないなど、生活に支障はないが仕事がうまくできない、という状態に陥ります。

やる気を引き出そうと努力しても、やる気を失う力の方が強く働いているので、うまく行きません。

統合失調の原因は、脳内のセロトニンバランスの崩れによるケースが多いとされ、精神科医にかかり効果的な服薬治療をうけることが有効です。ただ、低調ながらギリギリ生活できているため、本人が病気の可能性を認めない傾向が強く、治療が進まない病気としても知られています。

マネージャーが把握すべき神経症傾向

100人に1人程度の割合で統合失調症の懸念があるということは、部下を持つマネージャーは日常的に接する可能性が高いと言えます。

部・チームの仕事としては達成しなければならない仕事と、部下の能力との間にミスマッチが起きていると、マネジメントの消耗や育成の徒労が起きます。

また、統合失調症はかつて神経症(ヒステリー)に分類されていたもので、ベースのストレス耐性の弱さに原因があるため、普通の人なら問題のない仕事でも負担が大きくなりすぎるリスクがあり、労働衛生面でも注意が必要です。

うつを併発して抑うつ神経症という合併症になることも考えられます。

ストレス曝露時のセロトニン回収の機能が弱く、負の影響を長く引きずり思い悩むメカニズムが明らかになってきています。

マネージャーの立場からは、部下の昇進を考えて責任ある仕事を任せていかなければ、と考えることは自然ですが、部下がメンタル的に耐えるかどうかはあらかじめ把握しておくべきでしょう。

パーソナリティ検査で仕事を円滑に

心理学の研究を通じて、人の客観的な性格を表すBIG-5(主要五因子)のひとつに「神経症傾向(neuroticism)」の存在が特定されています。

つまり、統合失調症のリスク度合いは自他による観察を通じて比較的認識できる、という可能性を示唆しています。

BIG-5にもとづく パーソナリティテスト Decider (ディサイダー)では「ストレス耐性」という項目で神経症傾向を計測しており、標準より著しく低い場合に「メンタル警報」を表示して注意喚起する機能があります。

客観的に計測することで、部署異動・配属設計のヒントや採用の適性検査として活用できます。

実際のケースから考えて、神経症傾向には本人の自覚があり性格適性検査により把握可能であること、面接や昇進の多くのケースで適切に着目できていないためミスマッチが起きていること、が分かってきています。

部下の指導や教育がうまく行かないと思い悩む前に、メンタル面の阻害要因がないことを確認することが重要なのです。

参考文献:『脳研究の最前線(下巻)』(2007、理化学研究所 脳科学総合研究センター、講談社ブルーバックス)

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