組織のあるべき姿を、経営学はどう考えているのか?

あらゆるビジネスにとって、“理想の組織像"はつねに関心事です。「より良いチームワークを実現し、優れたパフォーマンスを残せる組織でありたい」という希望は普遍的なものです。

経営学はこの疑問について、相当明確なアウトラインを提示しています。
『世界標準の経営理論』(入山章栄著、ダイヤモンド社刊)は800ページを越える大部の書籍ですが、初学者でも本流の経営学を俯瞰できます。

経済学・経営学では、企業が優れていることの指標として「超過利潤」、すなわち企業を維持できる水準を超えてどの程度儲かるか、という観点で評価しています。
継続的に利益水準を維持できる企業は社会から必要とされた結果であり、優れた企業であるという見方を暗に反映しています(優位性と呼びます)。 優位性の要因は個別にみると多彩でしょうが、その性質については学者の間でかなりの一致した見解があります。

下図はその論旨を元に、優れた組織の要件をフレームワークとして簡潔にまとめたものです。

組織のあるべき姿: 『世界標準の経営理論』をもとに作成

日々のビジネス・プロセスはルーティンに沿って遂行されていますが、そのルーティンに希少性を埋め込むプロセスが必要であることを示しています。

経営学は、マクロな観点で「超過利潤の要件は、希少性を創造することである」という方針を得ています。希少性がなければ完全競争・価格競争になり、超過利潤はゼロになります。
一方で、市場競争には模倣があるため陳腐化がつきまといます。希少性は、生み出されるとともに減っても行きます。

情勢の変動による不確実性とともに持続的優位性の余地は少なくなってきている、という観察もあります。
ルーティンが希少性を失わないことが、サステナブルな経営の条件なのです。

「あるべき姿」のために知的創造に着目しなくてはならない

“組織のあるべき姿"を想像する際、多くの人が「どのような仕事のプロセスであれば理想に近づけるのか?」「仕事をうまく進めるには?」という課題を想起するでしょう。
先ほどの図に沿って考えると、その問題意識はそもそもずれていることが分かります。

多くの人は、“仕事"を日々のタスクの延長で連想するものですが、これは現場ルーティンの範囲であり、超過利潤と直接の関係がないものです。
経営学が発見し議論していることは、ルーティンを書き換えるレベルの「知の探索」「知の深化」というプロセスにあります。

つまり簡単に言えば、「他社がやらないような知的創造をどれだけ社内で手がけているか?」が、あるべき姿に直結するのです。
競合他社と比較したとき、本当に異質といえる活動が自社のプロセスにどれだけあるでしょうか?

経済学・経営学は膨大なデータ検証を経て、組織のあるべき姿に知的創造が不可欠である、という見方にたどり着いています。

知の探索と深化

「あるべき姿」のプロセスは、知的創造であることが分かりました。
知的創造は、「知の探索」「知の深化」という2つの組織学習プロセスとしてモデル化されています。

「知の探索」は、サーチ行動を指しています。
リスクをとって従来と異なるやり方や異なる分野の経験を積んだり、異分野の知識を導入するような実験的行動をとることです。

「知の深化」は、獲得した知識を実装し、効率を向上したり品質精度を高めるような行動を指しています。

ポイントは、計画的な行動ではないことです。
探索は文字どおり既存ビジネスからみて未知の分野であることが重要で、実験的な行動となり、個別に見ると失敗もつきものとなります。
自社活動のほか、事業提携やベンチャー投資なども知的創造に活用できることが分かっています。

知的創造の可能性を高める組織

記事冒頭の図では、ルーティン更新のフローに加えて、組織階層と人材フローも記載しました。
組織のあるべき姿に求められる知的創造は、現場ではなくマネジメント・プロセスを想定しています。

経営者やマネージャーが実践できることととして、「本当に知的創造できるマネージャーが揃っているのか?」という課題意識を持つことが挙げられます。
マネージャーの人材の質は、昇進・異動といった人材パイプラインを通じて形成されています。

おそらく知的創造の水準については、経営者の感覚でもそれなりに的確な判断ができるでしょう。
知的創造の観点にこだわって改質することにより、組織のあるべき姿に近づける努力は可能です。

この努力をより客観的に行うためには、心理学スタンダードのBig5にもとづくピープル・アナリティクスが有効です。
Decider®は人物評価の客観性を高め、採用段階からチームの質の設計を可能にすることで、組織のあるべき姿の実現に貢献します。

多くのサンプルから見えてきていることとして、知的創造に意欲があり結果を出せる人は極めて限られており、ビジネスで必要とされる総数を満たせません。

希少資源を生み出すための人材じたいが希少資源なのです。そのため、教育や研修では組織の本質的な問題は解決できません。
ニワトリと卵のような話ですが、人的資源が欠けていると利潤の上がるサイクルに入れないのです。

経営学の知見にDeciderの検証を組み合せた結論としては、知的創造に関わる人的希少資源の有効活用こそが組織のあるべき姿に直結すると考えています。

Cover Photo by Austin Distel on Unsplash