役員・取締役とは?

  • 取締役は社員ではない
  • 社会の期待と責任を直接負うエグゼクティブ
  • 妥協のないチームワークが経営者を生み出す
  • あらゆるマネジャーの仕事は断片化している
  • 経営者に求められる行動特性
  • 取締役への挑戦は部長一歩前の転職がラストチャンス

よく知られている企業トップ・エグゼクティブの肩書きといえばなんといっても「社長」ではないでしょうか?
社長個人の言動が企業そのもののようにニュース化されることも多く、各企業のなかで社長の存在感は突出しています。

ただ、当然ながら企業はチームであり、じっさいの経営者とは社長だけでなく役員全員を含んでいます。
現場の社員だけでなく、経営者もまたチームなのです。
これはとてもシンプルな事実ですが、取締役など本人たちはとても強く意識している一方で、一般にはあまり知られていません。
この記事では、経営者の役割についてまとめます。

取締役は社員ではない

社長をふくめて取締役は原則として社員・従業員ではありません。会社法などの法律で地位や義務が決められており、文字通り従業員とはちがった責任を負っています。
社長や副社長、専務、常務といった肩書きは一般的な社内ルールでしかなく、法律的には「取締役」は経営者として同列に扱われています。
一般のイメージと異なり、取締役の行動原理は「社長の指示にしたがう」ことではなく、「社長とともに社員組織に指示を創り出す」ことにあるのです。

局面によっては、誰よりも強く社長に反対し、企業にとって最適と信じる選択肢を押し通すことが求められます。
決まったことを実行するのはミドルマネジメントであって、トップマネジメントは企業のリスクとチャンスを評価して合意と決断を生み出していくことが本質なのです。

社会の期待と責任を直接負うエグゼクティブ

企業は思っているよりも多くのことが期待されています。
消費者は商品・サービスの品質、従業員は雇用の継続、株主は事業と利益の拡大を暗黙のうちに期待していますし、仕入先の企業や金融機関との信頼関係も断ち切るわけにはいきません。

経営者はこのような期待を具体的な人間関係として強く意識しています。
ミンツバーグが『マネジャーの実像』で描いているとおり、トップマネジメントの仕事は社外の関係者との恊働が大きなウェイトを占めます。
期待に応えるためには企業が結果を出す以外の方法はなく、うまく行かないことがあれば大きな迷惑をかける関係者がいるという環境につねに直面しています。

妥協のないチームワークが経営者を生み出す

このように、役員は同じ企業に所属しているといっても目に見えない環境や行動原理は従業員とは大きく異なります。
ドラマのように業績で測られる素朴な昇進競争は、おそらくトップマネジメント層についてはそれほど多くないと考えられます。

多くの経営者は、自分が強力な当事者意識をもってビジネスに関わっているため、部下についても同様の資質があるかを見抜いています。
チームが確実に結果を出すことにこだわり、自分の頭で考え、実行する際の難点や失敗の影響度をあらかじめ想定できていることが、チームワークを完遂できる「責任感」と言えます。

企業のトップを担うためには、個別のビジネススキルではなく、むしろ人間としてのポータブルスキルの良し悪しが問われるのです。

あらゆるマネジャーの仕事は断片化している

サラリーマンと経営者のワークスタイルを比べたときの最大の違いは、経営者は著しく行動が断片化する、という点にあります。
経営者は忙しい、とよく言われますが、主観的には仕事の総量が多いことよりも、無数の細切れの仕事に対応するあわただしさの方が、より忙しさを感じさせます。

このように仕事が断片化するのは、組織運営に不備がある一部の組織だけというわけではありません。

マギル大学のミンツバーグ教授は「マネジャーの実像」で、多彩なマネジメント業務を実地に観察して「さまざまな活動を短時間ずつおこなう」「互いに関連性のない業務を細切れにおこなう」「頻繁に自分自身でものごとを実行する」といった共通の特徴を描き出しました。

まとまったタスク、計画的なタスクは定常業務の範囲となるため現場スタッフ・現場マネジャーに任せることになり、組織のトップ層はより細切れの急務を引き受けることが多いのです。

これが経営者の一般的な労働環境であり、経営者には時間的な断片化・猛烈なタスクスイッチへの耐性が何より必要なのです。

前掲ミンツバーグは「マネジャーには、頻繁に、しかも素早く気持ちを切り替えることが求められる」とまとめています。

経営者に求められる行動特性

断片化の激しい仕事環境では独特の行動特性が必要になります。

まず、記憶力の酷使が挙げられます。
短時間で物ごとを正確に記憶し、のちに関係のある事象に遭遇した際に瞬時に思い出せることが重要です。
じっさいに優秀な社長は例外なく記憶力に優れており、特にスケジュールの日付や数値に関する精度がきわめて高いという特性を持っています。

また、ミンツバーグが指摘するとおり意識の切り替えの速さも特徴です。
より広い部門を指揮する立場になるほど、一つひとつの仕事の関連性がなくなっていきます。
タスクを切り替えるごとに、その仕事を以前手がけた際の情報と意識を再現する必要があるのです。また、感情的な面でも、好業績のチームと課題の多いチームでは応対を切り替えなくては効果的に影響力を行使できません。

このような著しいマルチタスクへの適応によって養われた瞬発力・実行力が、変革を牽引し続ける経営者の基礎体力と言えます。

取締役への挑戦は部長一歩前の転職がラストチャンス

大多数の企業では、取締役を直接外部から迎え入れることはありません。基本的には部長職からのミドルマネージャーとしての実績を評価して内部登用するフローが一般的です。

これは個人のキャリアから見たときには、部長職の一歩手前のポジションで転職することが、その企業の役員を目指す最終チケットということになります。取締役に限らず上級管理職へ挑戦する場合にも同じ基準があてはまります。