企業を経営資源の観点で分析する手法は、経営学ではリソース・ベースト・ビュー(RBV)と呼ばれます。
日本のビジネス現場では「ヒト・モノ・カネ」の観点で着目されてきました。
経営リソースを分析するうえで、リソース・ベースト・ビューが重視しているのは「希少性」です。参入障壁や差別化の点で希少資源が機能します。
そのため、ヒト・モノ・カネのうち、カネについては主要な経営リソースとは切り分けて考えるべきでしょう。
ヒト・モノ、その他の経営リソースについて動向を解説します。
資産分類の比較
経営資源は、各企業のバランスシート上に評価額が掲載されています。
「ヒト資源」はオフバランスしていますが、上場企業の人件費は開示されているため、10年償却資産に換算できます(換算手法は後述します)。
そのうえで日経225構成銘柄の企業につき、有形固定資産(モノ)・無形固定資産・ヒト資産の額を横断的に比較すると、以下のような傾向が分かります。
- 有形固定資産/無形固定資産/ヒト資産のうち、大多数の企業でヒト資産の額がもっとも大きい
- 有形固定資産がヒト資産よりも大きいのは、不動産ディベロッパー、石油、鉄道、通信など、ごく一部の産業に限られる
- いずれの業界も無形固定資産の額がもっとも小さく、相当マイナーな額にとどまる
業界にもよりますが、一般的にはヒト資源が有形固定資産の数倍程度の比率となっており、ヒト資源は全経営リソースの60%〜90%程度を占めると考えるのが妥当です。
固定資産の内訳
基本的にはヒト資源がメジャーですが、有形固定資産が多額になるケースでは、内訳は土地や建物、機械設備です。
これらを直接利用する不動産デベロッパー、鉄道、通信などでは主要資源となります。
メーカーも工場・設備が不可欠な産業ですが、比率で見ると有形固定資産よりもヒトの額の方が大きくなっています。
無形固定資産は、ソフトウエアやM&Aに伴う「のれん」、使用権などの権利金が主要な項目になっていますが、どの業界でも無形固定資産はマイナーです。
いわゆる「無形資産」投資が経営を牽引しているケースはほとんどありません。
経営学では、インタンジブルアセットとしてルーチンを研究対象にしており、資産計上される経営リソースよりも仕事のプロセス上の工夫(ヒト資産の内訳)の方が重要であることがうかがえます。
第一のマネジメント対象はヒト資産になった
20世紀は工業の時代であったため、“モノ"すなわち有形固定資産が経営リソースのドライバーでした。
しかし戦後50年をかけてグローバル競争が進み、現在では"モノ"の希少性が下がっています。
じっさいに、中国などアジア諸国が急ピッチで製造設備を整備し、日本からの工場移転が進みました。
その間、日本は物価の高い先進国になったため、ヒト資源が金額面で一番大きくなっています。
企業は、人件費を給料として経費計上していますが、法規制や慣行の問題でヒト資源はあまり入れ替わりがありません。
よって、たとえば年間の人件費を10倍することにより、耐用年数10年の資産と見なすことが妥当です。
年数については、実態により調整の余地がありますが、上場企業の平均勤続年数が5〜15年程度に分布しているため、10年はリーズナブルな仮定でしょう。
同じモデルを用いて「 中古ベンツと人材、どちらにどれだけ投資すべきか? 」で試算したとおり、従業員50人規模の中小企業であっても16.5億円程度のヒト資産を抱えています。
ヒトの希少性は適材適所で決まる
自社の経営リソースについては、バランスシートをもとに確認すると良いでしょう。
そしておそらく、「ヒト資源がクリティカル」という結論に至ると考えられます。
ヒト資源については、バラつきが大きく不透明である、という課題がありました。
しかし、近年の心理学の進展により、
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人的資源を分析する際、経営リソース分析にあたるものは、目標管理のようなプロセス分析ではなく、性格指標にもとづく適性分析です。
自社のプロセスに合った人材を選定し、適切なポートフォリオを形成することが、今日における経営リソース・マネジメントの最大のテーマとなったのです。