中古ベンツと人材、どちらにどれだけ投資すべきか?

中小企業サバイバルの中で自然発生的に生まれてきた節税文化の象徴的存在が「中古のベンツ」です。
HowToについては本稿では扱いませんが、特定の経営者クラスタで"賢い選択"と受け入れられている中古のベンツの精神を少し拡張して検討してみましょう。

創業期のベンチャーや中小企業の大多数は、制約された経営資源の中、社長の知恵と工夫で運営されているものです。

限られた経営資源のうち、かなりの部分を人件費が占めています。
そして人件費にも節税効果はあります。それでもなぜ中古のベンツが根強く支持されるのでしょうか?

ベンツと人材の算盤勘定を掘り下げます。

人財のモデル化

“人財"という表現があります。
経営で「財」とは、長年にわたって使用するものであって、価値のある資産のことを指します。

人材を財と捉える視点は「解雇しづらいため長年にわたって使用することになる」という性質から来ます。
OECDが継続的に先進各国の雇用保護の度合いを計測していますが、日本は世界有数の解雇しづらい国であり続けています。
(一方で、いざ解雇となると保障の実態は手薄である、という分析になっています)

正社員を耐用年数10年の資産と考えてモデル化してみましょう。現実より短めに見積っていますが、実態に合わせて数倍することで推定してください。
従業員50人規模・平均給与300万円の場合、年間1.5億、法定福利費が10%程度かかりますから、人件費に1.65億円ほど払っています(減価償却費に相当)。

よって中小企業であっても、16.5億ほどの人財を抱えていることになります。
これだけの資産を持っている会社はそう多くはありませんから、10億以上の潜在的な負債がオフバランスで存在しています。

倒産するとこの負債の大半は雲散霧消しますが、つぶれる前提で起業する社長はいないので、ゴーイングコンサーンである限り「人財16.5億、負債10億」のモデルはなりたちます。

一方、中古のベンツは価格に開きがあるといっても、目安1,000万級の財です。

人材と中古ベンツの比較

税務上、従業員の給料・賞与は損金ですからボーナスを上げれば節税はできます。
ほかにも税額控除や補助金などもあり、政府は人件費に対して節税と同等のメリットを積極的に提供しています。
そしてこれは裏技ではありません。制度はその時々で異なるため、どのような手があるかは顧問の税理士に確認してください。

なぜ、人材投資ではなくベンツなのか?
本質的なポイントに移りましょう。それぞれの財の性質は以下のような違いがあります。

  • ベンツは価値が下がらず、翌年以降売却するオプションがある。人材は売買がないため、換金しようがない
  • ベンツは業務資産として利益に貢献しない(事実認識)。人材は利益に貢献することもある一方、損失に結びつくこともある
  • ベンツ保有台数には事実上、低い限界があるが、人材は増えうる

要するに、人材の価値が不透明であるため、よりクリアな効果をもたらす中古のベンツに負けがちなのです。

人材価値が不透明なのは経営の生活習慣病

結論を述べると、人材の価値が不透明なのは、一人ひとりを個別に評価・分析していないからです。
ひとつにはこれまでの従業員分析の手法が、モチベーションやエンゲージメントといった、業績と連動しそうで実は連動しない指標を追跡していたという経緯があります。
経営学におけるエンゲージメントの認識と限界については、以下の記事で解説しています。

心理学の進歩により、従業員一人ひとりの違いは ビッグファイブ性格特性 で、きめ細かく分析可能になっています。
プロセス分析との違いは、人そのものが持つ本来的な違いに着目していることで、個別資産の質の鑑定に当たります(ただし良し悪しではなく、向き不向きが分かる)。

ボーナスを上乗せしたことにより、来季の努力をコミットする度合い・そしてその際の計画性は「信頼性」でかんたんに測れます。そして、分析軸はそれだけにとどまりません。

「たくさん払ったから結果が出るわけではない」という経営者の直観は適切です。
ただし、それはスタート地点であって結論ではありません。

16.5億の人材資産はどの会社にもあり、含み益にも含み損にもなり得ますし、いずれ様々な事象として表面化してきます。
この規模の資産の変動を受けて、経営が無風ということはないでしょう。

より実効的な分析を導入し、きめ細かく資産管理することは最低限の備えといえます。
ビッグファイブの組織分析ツール Decider®なら、大がかりな組織コンサルティングに頼ることなく月額5万円で利用できます。

中古のベンツを保有できる台数にはおのずと限界がありますから、手際よく検討を終え、良くも悪くも最大の経営課題に正面から向き合うことを推奨します。

Cover Photo by Meik Schneider on Unsplash