実践、タスク管理で学ぶプロマネ初歩

課題管理はプロジェクトマネジメントの初歩スキル

プロジェクトマネジメントのスキルは、”決めたことを実行する”ミドルマネジメントに必要な能力です。

複数人のチームでビジネスを進める際、プロジェクト管理能力が低いと個々のメンバーがどれほど優秀でも見事に”烏合の衆”と化します。

中でもタスク管理・課題管理は文字どおり仕事のToDoに特化したスキルで、ほかのプロマネ運営の基礎技術にあたります。

タスク管理以外のプロジェクト管理スキルには、チーム人員配置など資源配分に関わるタスクがあります。

メンバーの計画などもタスクに対して割り当てるかたちで設計を進めるため、タスク管理がプロマネ技術の基礎スキルと言えます。

タスク管理は二次元。頭で考える人は失敗が約束されている

タスク管理の難しい点は、以下のような見通しが悪い工程が含まれることです。

  • 複数のタスクに前後関係があり、数が増えてくると段取りの順序が重要になる
  • 作業を進めることで初めて見通しが立つタスクがある
  • ほかのメンバーの進行状況に影響を受けるタスクがある
  • チームの実力値に対して難易度の高いタスクがある

結論的にいうと、このような絡み合ったタスクを解くためには、図を書くことが欠かせません。

少なくともタスクのリスト(縦軸)と日程・期限(横軸)の関係を表現する必要があるため、二次元の図が必要なのです。

頭の中でタスクを管理しようとする、その場で解こうとする人が多いのですが、頭で考えるとタスクだけが頭に浮かび、しかも端から忘れていくため、どうしても一次元未満しか管理できず、早々に破綻するのです。

大多数の人は「図を書いていない」という素朴な一点のために、チームワークの初歩を身につけることができずにいるのです。

基本形はガントチャートだが、実運用は課題管理表がベター

タスクと日程を管理する図としては、ガントチャートが広く使われています。とても大ざっぱにいうと、実戦の中で根気よくガントチャートを作成・更新し続けていけば、誰でも自然にタスク管理の達人になれると思います。

ただ、ガントチャートは手ごろなツールがないことと、作成・維持にやや手間がかかるため、けっきょく更新しなくなる傾向があります。

ツールの難点は、MS Projectが完成度が高いものの高額であるため手が出にくく、といって代替となるツールも印刷をはじめ機能面に粗があって使いづらいものが多い、という一長一短な現状によります。

根性のある人ならガントチャートで走り切った方が良いと思いますが、使わなくなってしまうくらいであれば、より簡素な課題管理表を運用すべきでしょう。

課題管理表は、ExcelやGoogleスプレッドシートなどの表計算ソフトで作る単なる表です。

縦軸にタスクをリスト化して並べていく点はガントチャートと同じです。

一方、横軸はガントチャートが棒グラフ状に図示しているのに対して、課題管理表では「2016/5/31」のように単に期限の日付を記載する点が最大の違いです。

課題管理表の必要項目は以下の通りです。

  • 番号
    • タスクを表す番号。おおくのタスクには依存関係があるため「No.3が終わってから着手」などのように他のタスクを指し示すために使います。また、複数メンバーで打ち合わせる際には、どれを指しているのかを明示するために必要です
  • ステータス
    • タスクの状態を表すラベル。設計は自由ですが、最低限「未着手/実行中/完了」があれば足ります。
  • 項目
    • タスクの名称です。表記は一行で意味の取りやすい状態になっていれば良く、名詞形や動詞形が不統一になっていてもとくに問題ありません。
  • 記載日
    • タスクを表に書いた日です。各タスクがどの程度の期間、放置されていたかを計る目安に使います。
  • 期限・完了日
    • タスク作成時点では、それを終えなければならない期限日を書きます。完了した際には実際に完了した日に書き換えても良いですが、完了したタスクはおおむね重要度が低いので、期限日から更新せず単にステータスを「完了」に変えるだけでも問題ありません
  • 状況・結果
    • 進行中のタスクは最新の進捗状況を記入・更新します。タスクが完了した際、どのような結果になったのかが重要なタスクについては、結果を記入しておきます
  • 補足
    • そのタスクの注意事項や具体的な進め方の案、他タスクの参照などを記載します。

また、タスクに「分類」をつけることも有効かもしれません。ただし、分類そのものに気をとられることも多いので、細かくなりすぎるようであればそもそも整理しない方が実は効率的です。

課題管理表の目的と運用のポイント

プロジェクト運営の中で、課題管理表がどのような機能を持っているかを理解することで、更新運用のポイントが見えてきます。

  • 脳の短期記憶領域を節約でき、タスク設計や最適化に集中できる。タスク間の順序はいちどタスクをリストアップしたあとで独立して検討できる。また、個別のタスクの詳細を考える段階では、他のタスクを覚えている必要がない
  • チームの最新状況を全メンバーが知ることができる。これがないと、分担した各チームが後続作業のチームに迷惑をかけることに気づけず、「忙しいから」といった自己都合でスケジュール遅延が起こる。
  • 遅延の度合いをヒントに、いまチームの問題の所在がどこにあるのかを理解できる。2つ以上のタスクが共通の原因の影響で止まっているケースも多々ある。
  • プロジェクトマネージャー以外のメンバーもプロジェクト運営に参加できる。タスクをうまく構造化できることと、構造化されたタスクの課題を解決できることは別で、構造化されるだけで問題の難易度は下がる

マネジメントが苦手な人は、たいがい情報共有そのものを軽視しているのですが、最新状況を単に多くのメンバーが知るだけで解決することはとても多いのです。

「コミュニケーションがスキルであり上達可能である」という事実の一側面はこの点にあります。

コラボレーション(協働)を行ううえで情報共有を進めればチームのストレスが下がり、情報流通度が下がればストレス値は上がります。タネも仕かけもありませんが、魔法のように効きます。

具体的に、管理表を更新する際には以下のようなポイントに配慮してください。

  • ひんぱんに見る。うまく行かない人はそもそも見ていない
  • 項目をどんどん書き換える。状況に応じて対処法は変わるため、最新状況が記載されていることが重要
  • 積極的に「完了」に切り替える。完了報告があることで未完了タスクを終えようとする心理的動機が働く。継続してやるのかやらないのかが不明なタスクは完了してしまい、後日必要になったら再度記載する
  • 期限日には特別の注意を払う。状況に応じて期限日が変わることがあることに加え、遅延の際に適切な期日を再設定することが重要。
  • 記載日から長期間経過しているタスクについては、それだけを切り分けて検討する。タスクじたいに無理があるか、無意味である(!)こともあるため、単なる期日の再設定では解決しない
  • 各タスクの担当者に状況報告を求める。単に忘れて止まっている件を防止できるほか、やってみてダメだった場合の理由が表面化することも多い

このうち、期限日については特に注意が必要です。

詳細度が高ければ理解できないことは少なくなり、難易度が下がります。一方で詳細化するほど項目数は当然増えるため、表にリストアップすることが重要になるのです。

タネも仕かけもありませんが、魔法のように効きます。

タスク間の挙動がつかめるようになってくると、タスク管理は”暗算”できるようになり、ビルディングブロックとしてとらえることが可能になります。

この能力は、”何をすべきか”を決めるトップマネジメントの基礎力に直結します。

人のチームの挙動は多かれ少なかれ安定しているため、ある施策を実行した場合にどのような結果になるのかを、あらかじめ見通せるようになるからです。

高齢の経営者が活躍するのは、このような人を率いる技術が劣化しにくい普遍的なスキルだから、という要因はあると思います。

経営には多くの要素がありますが、ミドルマネジメントの手腕は才能ではなく誰でも習得可能なものであるため、真っ先に獲得してしまうべきものと言い切れます。

剣豪・宮本武蔵は『五輪書』水之巻で戦闘時の目の使い方を解説しています。

敵の太刀をしり、聊か(いささか)も敵の太刀を見ずといふ事、兵法の大事也。工夫有るべし。此(この)目付、ちいさき兵法にも、大きなる兵法にも、同じ事也。目の玉うごかずして、両わきを見る事肝要也。かやうの事、いそがしき時、俄(にわか)にはわきまへがたし。此書付を覚へ、常住此目付になりて、何事にも目付のかわらざる所、能々(よくよく)吟味あるべきもの也。

同感です。

要するに、細部に目を奪われると動いているターゲットを捉えられないから、普段から情景全体に視線を合わせるよう訓練せよ、ということです。

タスク管理で言えば、個々のタスクは表上で更新の作業をしながら、全体として何が起こっているのか、行間(タスク間の力学)から浮かび上がってくる景色を読み取ることで有事のマネジメント力が鍛えられるということです。