「先延ばし」「先送り」は、人生全般のあらゆる面で失敗を確定してしまう病です。
誰しも平等に寿命のカウントダウンは進んでいきますし、日々生きるコストを消費しているため、無為に過ごしているだけでジリ貧の人生を刻々と確定していくことになるのです。
先延ばし癖が起こる原因
「先延ばし」の問題をもう少し切り分けてみましょう。
多くの人がチームワークや組織の指揮系統の中では、先延ばしを一定のペースで解消しています。
仕事上のタスクや宿題として、期日とToDoが具体的になっていれば、決まったペースで目標を達成できているのです。
決めたことを実行するミドルマネジメントの要点は”説明責任”です。
プロジェクト進行の”説明責任”とは、進み具合の見通しを説明させたり、期限を過ぎてしまった場合には、それがなぜなのか、どのように立て直すのか、それはいつなのか?を説明させることです。
何かが「できない」ということには実はあまり理由がないので、「なぜできないのだ?」と言われると返す言葉はないものです。
苦しまぎれのよくある回答は「忙しい」「時間がなかった」「そんなにすぐにできるはずがない」ですが、これは嘘です。
TOCで知られるゴールドラットが「学生症候群」という現象を指摘していますが、これは期限を長くとっても着手が遅くなるだけで達成率は特に上がらない、というものです。
夏休みの宿題は8月末にあわててやるものなのです。
このように、チームの中で言い訳がしづらく「誰かにやらされる」環境さえあれば先延ばしは起こりづらく、それ以外の理由は重要ではありません。
そしてもう一度全体に視点を戻すと、先延ばしの問題とは「実行させられる立場」ではなく「実行させる立場」、つまりマネージャーとしてのスキルや、それを自分自身の問題として内面化していく点に弱点があるのです。
言いかえれば、多くの人は「どのように実行するか?」ではなく「なぜそれをやるのか?」「できるのか?」というお題設定のフェーズが緩すぎるのです。
なぜ創業社長はすぐやるのか?
先延ばしグセをどのように解消していくべきか、という方法論については、それが身についている人に学ぶべきでしょう。
「すぐやる」人たちの代表例は、企業の創業社長です。
彼らは落ち着きがないほどに、思いついたこと・聞いたことをすぐやろうとします(あまり人のことは言えませんが)。
彼らの特徴的な物の見方を具体化するために、ひとつの標語で説明しましょう。
禅の言葉に「日日是好日(にちにちこれこうにち)」という禅語があります。
字面を見て「”毎日が良い日”だから、これはポジティブシンキングのことだ」と思う人が多いのではないでしょうか。
しかしそうではありません。ポジティブシンキングを重視する人は山ほどいますが、多くの人が先延ばし指向でもあって無力です。
僕がこの語から読み取るべきキーワードは、「昨日や明日とは関係なくその日その日が都合が良い」という、デジタルな時の見方だと考えています。
何かを実行するときに「今から何をするのか?」ということだけが重要であって、過去の事情はあまり関係がない、ということです。
毎朝、「なにをすべきか?」をゼロベースの状態で考えて、その時に必要と思ったことを後先省みずにやるのが”日日是好日”なのだと思います。
身近にオーナータイプの創業社長がいる人であれば想像がつくでしょうが、社長は話がころころ変わる印象を持たれることが多くあります。
話の一貫性を重視したい心理を「認知的不協和」といいますが、創業社長には認知的不協和のあまりない人が多いのです。
「昨日と話が違うではないか」と詰め寄ると、彼らは「状況が変わった」と言います。
実感としては、状況すら変わっていなくて、今やるべきことだからやる、ということしか考えていないのでしょう。
それが先延ばしの起こらない見方です。
過去をふり返らず今この瞬間に集中する
認知的不協和に関連して、アンチパターンの物語をもう一つひくと、日本神話の 黄泉比良坂 (よもつひらさか)のエピソードがあります。
これは、イザナギが亡くなったイザナミに会うために黄泉の国を訪れるものの、約束を破ってイザナミの腐った姿を見たがためにピンチになって逃げ帰ってくる、という話です。
この話の意図は、イザナミとの失われた過去を見に行っても得るものはそもそも何もないという前提と、詳細にふり返ったがためにロクでもない目に会う、という二重構図で、過去を振り返ることの無意味さを説いているのだと思います。
日本神話に限らず「ふり返る」ことが災いを呼ぶ、という形式のエピソードは世界各地にあるそうです。
先延ばしにしている人の話を聞くと似たような印象を受けます。
何か過去の些細な経緯が引っかかってクヨクヨしているケースが意外に多いのです。
改めて「それは目標とどういう関係があるのか?」と聞くと「そんなに関係はないですね」と気づきます。
大半の人が、無意識のうちに前後関係にとらわれているのです。
自分のダメな点を探すのが大好きな人たちもいますが、直すとしたらこの1点だけではないでしょうか。
まとめると、先送り指向の根本には「過去との一貫性の中に自分の存在を確認する」という習性(認知的不協和)があります。
自己同一性や自分さがしを始めてしまうと、さらに抜け出ることが難しくなります。
だからこそ、先延ばしから脱却するためには「日日是好日」という物の見方が有効なのだと思います。
“今できていない自分”の中には特に理由はないので、今この瞬間に集中し、置かれた前提の中でノーリーズンで活動することによって行動的になれるのです。