ロジックツリー初級・中級・上級

大多数のケースで「ロジカルである」ということは、ツリー型の抽象思考ができる、ということと同義です。

ツリー思考の上達には、ロジックツリーを作る練習が最適です。できの良し悪しを自分の目で見て判断できるため、自習だけで一定のレベルまでは到達できます。

ロジックツリー習得のネックは、作成の努力をあきらめがちで練習不足に終わることです。

実際の問題解決やビジネスシーンと関連させることができず、無意味な作業をしている感覚に陥ったパターンが多いはずです。

使えるロジカル思考力を身につけて実戦に生かすため、ロジックツリーとマネジメント実務の関係を初級・中級・上級のレベル別に確認しましょう。

ロジックツリー初級

初級レベルで目指すべき達成度は、「3階層のツリーをMECEに作れる」段階が目安です。原典として普及した『考える技術・書く技術』(バーバラ=ミント著)などの参考書で解説されている段階です。

ロジカル・シンキングが身についていない人の主な症状は、「たった1例思いついたところで思考停止する」「具体的に何を指すのか自分でも分からないキーワードを1つ挙げて終わる」というものです。

この出発地点から次のチェックポイントに到達するには、まず関連すること、似たものを羅列することから始めると良いでしょう。

これはMECEのうち、CE(Collectively Exhaustive: かき集めた要素で語り尽くせている)をまず達成する努力です。

ロジカルシンキングの第一歩では、羅列することすらうまく行かないことに気づき、練習で克服することが必要です。

この段階で第三者から有効な助言を提供することは難しい。情報の探索力をつけることが目的なので、他人から情報をもらって終わりという展開になってしまうと元の黙阿弥になります。

また、後半のME(Mutually Exclusive: 要素同士が同じことの言い換えになることを避ける)にも関わることですが、ツリー作成にあたり「書く」ことは最重要です。

人間のワーキングメモリーは マジカルナンバー7 として知られるとおり、一度に頭の中で取り扱える要素が数個しかありません。

要素を挙げていくうちに、最初の要素から順に忘れていくのです。ヘンゼルとグレーテルがパンくずを丁寧に置いて森に入ったとき、端から小鳥に食べられてしまったので家には帰れなかったことを思い出しましょう。

書き出すことにより検討済の要素は考えなくても良くなるため、羅列・網羅のハードルは下がります。

なんとかCollectively Exhaustiveを達成できたら、次はMutually Exclusiveのため、グループ分けと重複削除の作業に進みます。

MEの段階では、以下の作業を同時に行うことがポイントです。

  • 要素間で単なる言い換えに近いものが2つあれば1つにまとめる
  • 要素間で大きく違うものに着目して、グループを作り出す
  • すべての要素をグループに入れる

3階層のツリーでは一番上の要素は検討対象のテーマそのものですから、このカテゴリー分けが完成したらそれで終了です。

ここまでの作業で、グループ別の要素リストが何らかの形で手元に書き出された状態になっているはずです。

多くの場合、1度目の作業ではアンバランスなグループになりますが、一応の構造ができあがります。

この段階で以下の着眼点でチェックして、ツリー(=グループ)を補正することで完成を目指します。

  • グループ内の要素数に著しい偏りがないこと。要素が少ないグループがあれば、見落としている要素を考えて追加する
  • もともとの検討テーマと見比べて、グループに見落としがないこと。作成したグループに網羅感がない場合、グループと各要素の関連性を確認する。浮いている要素があれば、隠れたグループの可能性を暗示している

この最終段階のプロセスが、ロジカルシンキングの中核部分です。

ロジカルに考えるということは、あるテーマについて1段階具体化したレベル(ただし実物ではなくグループ概念)で説明し直し、自己矛盾を排除している、ということです。

ロジックツリー中級

ロジックツリーの初級は、目的に沿った抽象度で物を考えられるということでした。

ツリーの作成を続けていると、具体的な要素を必要とせずツリー階層を考えられるようになります。

おそらくサブツリーのパーツ(グループと要素のセット)が長期記憶に移行・定着して、カテゴリー概念のキーワードだけで具体的に何を指しているのかが連想できるようになるのだと思います。

ワーキングメモリーは相変わらず数個の項目しか操作できませんが、ロジックツリーの抽象度を上げて考えられるようになれば、より高度で素早い判断が可能になります。4階層のツリーを苦労せず作れるようになれば初級段階は卒業と言えます。

ロジックツリーの中級レベルの達成度は「役に立つツリーを見出せる」段階を目指します。これは、別の変数に着目してツリーを組み替えられる能力を指します。

初級段階のロジックツリーで手に入る能力は、自己矛盾のない抽象思考です。

この段階の主な症状は、「妥当な説明は可能だが、ふーんという印象しかなく面白くない」「記述したロジックが現実の仕事と無関係なものになる」というものです。

中級のトレーニングは、「同一テーマについて、1つだけでなく別のツリーを描く」ことです。練習としては2つ目といわず沢山出せるほど良いでしょう。

別のツリーとは何かというと、カテゴリーの組み合わせを変えてツリーを作ることです。

たとえば、「利益UP」というテーマがあったとき、(1)売上/費用、(2)個別利益/販売個数、(3)直接販売利益/間接販売利益、……といった複数の分析軸の可能性があり、それぞれできあがるツリーは異なります。

できあがったツリーの評価については、自分で判断できるレベルにはなっているでしょう。

この段階では、他にどのような切り口があるのかを思いつき、それを実際に図示するプロセスが大切です。

着眼点のヒントとして、「操作可能な変数」について考えると有効なツリーを考えやすくなります。

操作可能な変数が一部のサブツリーに集中するような構造が「役に立つロジックツリー」です。逆に、ツリーの中に操作可能な変数がなかったり、全体的に散在しているような構造になっているものは、仕事上の実際のアクションになりづらいため「妥当だが無意味」感の強いツリーになります。

先ほどの利益UPのケースでいうと、取引先交渉による費用低減、セット商品化による個別利ザヤの拡大、間接チャネル報奨による浸透余地の発掘、などが言えれば”操作可能”と言えます。

このように操作可能な変数を通じてツリー全体のアウトプットを導くストーリーのことを「打ち手」「オプション」と呼び、オプションを複数記述できる能力を戦略思考といいます。

戦略的であるためには、ツリーから複数のターゲット変数を見いだせることや、ツリー自体を複数の視点から描けることが必要です。

ロジックツリー上級

中級までのロジカルシンキングを達成した人であれば、一般的な”ロジカル”という範疇はクリアしていると言えます。

ロジックツリーの上級は、一般的にはロジカルというより直観や洞察と呼ばれるジャンルの思考スキルになるでしょう。

ここまで到達する人は、ホワイトカラーの500人に1人未満ではないかと思います。中級までの能力を獲得したうえでチャレンジする領域です。

物ごとを的確にロジックとして記述できる人がなお苦労する症状として、「たしかにKPIとしては効果を上げるがゴールに結びつかない」「ある点を改善すると同時に別の問題が噴出する」といった難題があります。

この段階の克服には、多変数の環境を複数のツリーまたはネットワークシステムとして記述できる力が求められます。

この点については横山禎徳『循環思考』という本にくわしい解説があります。著者は元マッキンゼー・アンド・カンパニー東京支社長で、何でもツリーとして捉えたくなることの限界を説いています。

周囲の環境からある程度隔離された閉鎖系のツリーであればこの条件を満たしますが、要素間に実は影響関係があったり、要素の制御よりも大きな外部の影響要因がある開放系のツリーでは、想定と異なる挙動となります。

このようなケースでは、目的のツリーと独立して主要な影響因子のマクロなネットワーク構造を見出しておき、それがツリーにどのような影響を与えうるのかをメカニックに理解しておくことが必要です。

ただし、ロジックツリーにはコミュニケーションツールとしての機能も重要であり、このような開放系の複雑なネットワーク構造を図示したところで、それを話し合える相手は極めて限られるという点には注意すべきです。

複雑系を理解できる能力はプラスですが、会話に持ち込むとチームの動きが止まります。そのため、この循環的なネットワークの議論は、中級までのロジックツリーに対する注記程度にとどめざるを得ないと考えられます。

上級の思考様式を当初から理解する必要はありませんが、ロジックツリーを実戦投入するうえで、その限界をなんとなく理解しておくことは重要です。自分の描いたツリーがなぜ機能しないのかを特定するヒントになるでしょう。

まとめ:まず初級ロジックを身につけよう

ロジックツリーの上達論は、守・破・離の3段階に対応しています。

ロジックツリーは自己矛盾を解消できるツールですが、必ずしも適切に記述できていることは保証できません。

妥当性を検証するための情報はできあがったツリーの内部にはなく、初級・中級・上級の各段階で解説したような別の視点が必要になります。

いずれにしても、建設的で有意義なアクションのためには、多要素を構造的にとらえるロジカルシンキングは不可欠です。

何の練習もせず頭の中で考えられる程度の発想は誰にでもできることなので、基本的にノーチャンスですし、話し相手にも無策であることはすぐに伝わります。

ロジックツリーの思考様式に慣れていけば自然に思いつくことも可能になりますが、最初は無数のツリーを紙に描いてみることが重要です。