初歩ロジック上達のポイント

初級のロジック作りに難を感じるのは、思考停止するクセが強く身についている状態です。

「あきらめることなく考え続けよ」という面も上達の一面ですが、今回は単なる根性論ではなく具体的なコツを考えて見ましょう。

「抽象度」を理解して、具体性を上げる

よくある思考停止ポイントは、記載した要素の抽象度が高すぎて具体的に何を指しているのか自分でも分からなくなる、というものです。

ロジックツリーは抽象的な思考力を得るためのツールではありますが、抽象ワードには”良い”ワードと”悪い”ワードがあり、初心者は悪いワードを思いついただけで理解した気になってしまうのです。

悪の抽象ワードを見分けるかんたんなポイントとして「小学生のような表現になっていないか?」というチェックが使えます。

それはたとえば自分の書いたものに「良い」「悪い」「○○力アップ」「素敵」「幸せ」「ダメ」といった雑な形容詞が使われていて、小学生でも書き得る表現になっている印象を感じたらNGです。

この場合、今はそのテーマについて直接考える思考力がないので、いちど具体性を上げて考えを進める必要があります。

ロジックツリーの階層がある程度埋められているようであれば、サブツリー(下層)についても確認してみてください。

より末端の枝側で同じ症状になっているようであれば、一番下の階層で思考停止しているため、そこまで降りて考えないとゴールしません。

たとえツリーの形をとっていたとしても空論になっているので、まず上位のツリーを捨てる(unlearn)ことが突破口になります。

なぜ発想がもやっとするのか?

ロジックツリーを作る目的は、抽象度の高い考え方のスキルを上げて物ごとをシャープにとらえられるようにすることです。

発想がもやっとして自分でもコレジャナイ感を感じるのは、1つひとつの言葉のエントロピーが高い(雑然としている)からです。

シャープな発想の基本となるエントロピーが低いワード・良い抽象ワードは、以下の2つの観点でチェックできます。

  1. 対象の特徴をとらえている
  2. 対象以外の物ごとを含まない表現になっている

1点目は当たり前の話ですが、2点目の「対象以外の物ごとを含まない表現」というハードルは、あまり知られていないチェックポイントです。

冒頭で例としてあげた「良い」「悪い」「素敵」「幸せ」といったワードは、何を説明するにしても他の物ごとを含んでしまうため、もやっとした結論に一歩近づいてしまうのです。

もやっとした発想から卒業するには、1つひとつのワードがシャープになるよう、言い換えや別の表現を探る手順から始める必要があります。

多くの人が小学生のような雑な表現からレベルアップできずにいるのは、「この言い方だと別のものにも当てはまってしまうからダメなのでは?」という点に問題意識を持つことなくワード探索を止めてしまうからなのです。

この場面が、ありとあらゆる思考停止を生み出している現場と言えます。

ロジックツリーで言えば、より具体性の高い下層(枝)の表現から曖昧な状態になっていると、上の層(幹)でまとめの表現が不能になるため、何を書こうと砂上の楼閣になってしまうのです。

抽象度の高いアイディアほど、厳密な表現を持てないと簡単に空論になってしまうため、まずは具体性の高いものをよりシャープに表現する練習から始めるべきなのです。

ロジックツリーが練習ツールとして適している点は、どのレベルでコケているのかが図示されることで、より低いレベル(枝)で自分の限界値を探ることができ、適切な入口を発見しやすいことです。

まとめと補論

ロジックは、自分の頭で考えるトレーニングから得られるものですが、何から着手すべきかを知ることはなかなか難しいものです。

ロジックツリーを描いてみることで自分の限界値を理解し、よりシャープな表現の練習を積むことは良い出発地点となるでしょう。

今回は、言葉づかいのシャープさ、という課題を解説しました。

分かりやすく説明するため裏付けをはしょった面について、補足しましょう。

(読まなくても問題ありません。「こんなの何の役に立つんだ?」という方向けの補論です)

説明の途中であげた「エントロピー」は、物のたとえではなくこの解説の本質です。

アカデミックな情報理論で、ある言葉・データが個別の実物をどれだけ厳密に特定できるか?の度合いをエントロピーとしています。

本来指したかった実物を特定するために追加でどれだけ情報が必要であるか?(特定できていない度合い)が多いほど、エントロピーは大きくなります。

小学生並みの説明、というのはエントロピーの高い表現にあたります。

よりシャープな表現に厳しくなくてはならない理由は、エントロピー増大の法則があるからです。

エントロピーは一度増えてしまうと戻らない性質があるのです。

そのため、どこかの地点で小学生並みの表現をしてしまったら最後、そこから先の思考でエントロピーが減少することは二度となく、そこでデッドエンドです。

これが思考停止の正体です。

自画自賛になりますが、思考停止をエントロピーの観点から検討した解説というのは見たことがなく有益な発見だと考えています。

分かりやすさのため、”小学生並み”という基準を挙げましたが、ビジネス実務でも「プラットフォーム」「場」などの典型的な思考ワードがあり、そこから始まった企画はエントロピー増大の法則に捉えられて頓挫します。

なお、エントロピーについてはブルーバックス『エントロピーがわかる』が前提知識不要で的確にまとめられており便利です。