ベンチャーや企業活動を続けるうえで、つねに立ち戻るべき主要概念の1つに「事業価値」があります。
事業価値は、M&Aや投資判断の際にお金に換算できる指標にもなっていますが、ここではテクニカルな計算はさておいて、事業価値について直接考えてみます。
wantに着目する
僕の考えでは、事業価値とは「明日もあさってもずっとあるウォンツ」です。
ウォンツ=”want”のストレートな意味は「欲しい」、すなわち顧客が求めている、ということです。
企業がなぜ存在しているかというと、必要とされているからです。
変な話、人間は不要化しても寿命が尽きるまで生きていますが、不要なビジネスはあっという間になくなるのは間違いありません。
ベンチャーや新規事業では「すごくハイレベルなのかもしれないけど、何だかよく理解できないアイディア」というのが頻出します。
よく理解できないものは顧客も買えないので、けっきょくは消えていきます。
卓越する方向性を間違うと、必要とされないので事業価値が生まれないのです。
Whatではなく、欠けているものの中に価値がある
ウォンツ=必要なものに価値がある、というだけでは、言い換えているだけで平板に見えるかもしれません。
事業価値の見出し方にヒントが得られないと納得感が得られない、ということでしょう。
じつは、”want”には第2の用法として「欠けている」という意味があり、僕は事業価値を発掘するうえで「世の中に欠けているものを見出す」ことが何より重要だと考えています。
これは、リーダーシップが”見えないものを見る力”と言われることと同じです。
何か簡単には埋められない空白地帯が世の中にあって、そこに企業がはさまって供給し続けているものが事業価値、というイメージが重要です。
「事業価値とは何か?(What is…)」という路線で考えると、何か存在しているものを探してしまうため、答えにたどり着きづらいのです。
出店のない地帯こそ事業価値
このことは、お店(流通業)の事業価値を想像するとはっきりします。
ある地域にお店が出店していることの一番の価値は、単純にそこに商品が届いていない(欠けている)、ということです。
世の中に欠けている=自社が埋めている、という構造が安定しているほど事業価値は大きいのです。
逆に、先ほどのお店(流通業)のケースで、近隣の別店舗によって商圏がカバーされてしまうと簡単に欠落構造が崩れることもあります。
「明日もあさってもずっとあるウォンツ」とは安定的な空白地帯を見出すことなのです。
理想的には永遠にウォンツがあれば経営もだいぶ気楽なのですが、持続的競争優位性の賞味期限は年々短くなっているとの研究もあり、100年先のことを考えるより”明日もあさっても”くらいの方が探しやすいのではないかな、と思います。
事業価値の探索はパターン認識
逆説的ですが、世に欠けているものを見出す力を高める方法は、埋めているパターン(すでに成立しているビジネス)の辞書を頭の中にたくさん作る、博識になる、ということだと思います。
あるいは、博識になる→欠けているものが見える、という因果関係すらなくて、パターン認識に優れた人が博識でもあり、欠けているものが見える、という相関関係があるだけかもしれません。
博識になることによって表現力は高まりますが、表現できずとも欠けている領域の存在に気づいている、ということはあります。
身もふたもない話ではありますが、これまでに見てきたビジネスマンを並べて整理すると、そのような印象があります。
脳の機能のひとつに拡散的思考という独特の働きがあり、囲碁や将棋の大局観を読む力と同じ機能なのだろうと思っています。
そのように考えていくと、事業価値の探索にはAIが向いているのではないか、とも思えます。