ビジネス運営上、経理・財務の仕事は避けられません。
法人が存在するための義務でもあり、サバイバル能力の必要条件でもあるからです。
業務の平準化が最重要
経理プロセスの要点は、現実の取引を確実に記帳に反映することです。
スタートアップの場合、管理に割く体力がない、ルールが理解できないといった理由で、丸投げ・先送りが発生しがちです。
しかし、当たり前の話ながら、取引から時間が経過すると情報が失われていき、記帳義務は消えずに積み上がっていくため、仕事の難易度はどんどん上がっていきます。
“駆け込み経理”は非常に負荷が高いので、月締めなどのチェックポイントを確保し、締め日以前の取引については振り返らないフローを死守することが最低ラインと考えた方が良いです。
また経営の主要プロセスである財務管理の点からも、なるべくリアルタイムで集計値(合算の完了しているデータ)の総合判断や異常を知覚し、行動を決めることが欠かせません。
もちろん試算表を確認する頻度を増やせば情報量は増えます。
もし情報が増えることにアレルギーがあるのであれば、マネジメントに携わることから考え直すべきでしょう。
経営では、自分の知覚能力を越えた情報量を持つイベントが進行していきます。
現に起きていることを把握できないとなると、突発的な危機に直面するリスクが高まります。
経営のための管理会計を確立すれば、税務会計・経理はその活動の範囲におさまるはずです。
経理の”夏休み症候群”(宿題は8/31にやればいいや)が起きてしまっているようであれば、経理プロセスの確保→管理会計プロセスの確保、の2ランクUPを一気に達成すべきです。
「集計の確実化」と戦う
スタートアップ・中小企業には「経理マンがいない」という永遠の課題があります。
優秀な経理マンを雇える可能性については、一度忘れましょう。
経営者が満足する優秀な経理マンはおそらく全国の企業数よりも少ないと考えられます。
この条件はgivenな経営環境なので、現実的には税理士や記帳代行といった顧問・アウトソーサーを活用することが前提です。
税理士の先生などと関わるうえで、経営者が目標とすべき役割は「集計を確実にする」ことです。
案件(経理処理に漏れがない)と時間(手遅れない)の両面で確実に情報収集・記録できる手段を整備しましょう。
基礎情報さえ集約できていれば、顧問サービスの助けを有効に得られます。
集計の確実化のためには、実は会計ソフトではなく、勘定科目別の取引記録のためのシステムや業務フローの方が重要になります。
典型的なソフトウェアとしては、販売管理・給与管理・経費精算・旅費精算・生産管理といったジャンルがあります。
ツール・サービスのFit/Gap分析
会計ソフトと科目別システム(補助簿に相当)、税理士の機能を比較すると以下のような傾向があります。
項目 | 会計ソフト | 科目別システム | 税理士 |
---|---|---|---|
税額計算 | × | × | ○ |
申告書作成 | × | × | ○ |
適法性検証 | × | × | ○ |
財務諸表作成 | ○ | × | ○ |
資産異動管理 | ○ | × | – |
資本管理 | ○ | × | – |
取引入力インターフェース | × | ○ | – |
取引承認フロー | × | ○ | – |
取引履歴記録 | △ | ○ | – |
税務申告に必要な財務諸表を作成するために、いずれにしても会計ソフトを外すことはできないのですが、会計ソフトは一般的にチームの複数メンバーが1つひとつの取引を入力・記録する機能がありません。
記帳件数の点でいうと個別取引の一次記録の割合が多くなるため、補助簿のシステムを確立することがハイレベルな経理プロセスには必要です。
実務の手間を考慮すると、会計ソフトに入力する仕訳は月イチ程度の集計値のみに抑え、取引履歴はすべて科目別システム上で管理する、という切り分けが現実的でしょう。
科目別に適切なツールを使い分ける
会計ソフトと科目別システムの連携は、思っているよりも簡単です。
たとえば社員の立替交通費を月次集計するケースでは、会計ソフトに入力する仕訳データは「旅費交通費:200,000/未払費用:200,000」といった一行だけです。
このような仕訳は手打ちでも負荷のない範囲なので、科目別システムは個別会計ソフトの対応の有無よりも、入力時の使いやすさを最重要視して選ぶべきです。
選定の際の一般的な要件には以下のような項目があるでしょう。
- 取引担当者がなるべく直接入力できるインターフェースを持つ。アクセスできるユーザー数に極端な制限がない
- 入力段階で勘定科目を区別できる。別システムの使い分け、または入力インターフェースの選択肢による区別がありうる
- 実態を把握できる部門・部署のマネージャーの承認により、確定させる機能を持つ
- 取引履歴を9年間保持し、その間いつでもリストを追跡できる
- 精算支払の必要な立替取引は、ユーザー別の集計機能を持つ
- 保険料率など外界のルールで計算すべきものは、表データが供給され自動計算できるものがベター
業務の組み合わせをドキュメント化する
補助簿となる科目別システムを使い分けるとなると、集計の際に参照すべきツールや業務も複数の組み合わせとなります。
勘定科目別のシステムと、確認すべきポイントについては、ひと通りチェックリスト化しておき、システム変更などがあればそのドキュメントも更新すると良いでしょう。