目標設定には得意・不得意があり、「目標が思いつかない」という人はかなり多くいます。
目標が定まらずとも日常生活に大きな支障はないのですが、マネジメントの基礎スキルであることから、とくに30代以降のビジネスシーンで直面する課題が増え、避けがたい問題に成長していきます。
また、決断力や人生設計、チームワークなどの前提でもあるため、主体的な人生に目標・目的は欠かせません。
目標は思いつくものではなく作り上げるもの
目標設定の難点は、良し悪しの評価があらかじめ分かりづらいことです。
目標設定の著しく得意な人たち、たとえば創業社長などを観察すると、目標を決める際には、必ず手間をかけています。
“深謀遠慮”という熟語がありますが、未来について新たに立案する際には1つのアイディアに飛びつくのではなく深謀遠慮のプロセスを必ずとり入れています。
苦手意識のある人たちを含めて具体的なケースを並べて観察すると、第1案から適切な目標に到達する可能性は限りなくゼロです。つまり、目標を”思いつく”ことはありません。
目標設定には、ある種の丁寧さが欠かせません。
目標を見出しやすい人たちがとっている思考プロセスを確認してみましょう。
科学的批判に強くなる
目標に期待する大きな効果のひとつに「迷わないこと」があります。
明瞭な存在でいたいという期待に応えるには、目標は可能な限り明瞭であった方が良いのです。
目標を立てる際に「はたしてこれは適切な目標か?」と悩むことも多いかと思いますが、その際に大切なことは、そこで探索を止めない、ということです。
「適切か?」という疑問が残っている段階では、曖昧な点が残っています。
ひとつの定型的な進め方は、反証してみる、この目標ではダメな点があるとするとそれは何か?と考えてみる、という線です。
これは、適切か?不適切か?を確認する、とは異なります。適切かもしれないという立場を一度捨て、批判的に無理のある点を探すのです。
統計学では帰無仮説を否定することで「有意である」という結論を導きますが、手続きは似ています。反証がかんたんに成立する段階では、その目標は有意ではないと考えます。
このプロセスから抽き出すべき観点は、ダメだと感じた点の基準を引き上げてヒントを得ることです。
たとえば反証のパターンとして、実現可能性が著しく低い、というケースでは、取りうる手段に着目することが重要ということが分かります。また、採算が合わないケースでは、施策が小規模に止まるような展開は厳禁、といったルールが分かることもあります。
このような思考プロセスは弁証法と呼ばれ、ヘーゲルが著名です。
明瞭とは何か?
もう1つの線として、視点を変えて違う道筋を探る手があります。
その際のポイントは「明瞭とはナンバー1のことだ」と考えることです。
何であれ「ナンバー1」というキーワードと関連づけて記憶しているものは、たいがいクリアな存在です。
また、そもそもナンバー1は、無数のプロセスの中で凡庸な目標・手段を棄却することで成立してきたものが多く、借用できる着眼点を多く持っています。
ここで「そもそもナンバー1が何なのか知らない」という課題にぶち当たることがあるでしょう。
成功法則が自分の視野の外にある可能性に目を向けるチャンスです。自分のアイディアに自信がないのは、いま思いついたものに目を奪われ過ぎているからではないでしょうか?自分の中だけに答えを求めることに限界を見出し、より優れた存在について理解を深めた方が良いと思います。
実行リスクの観点を持つ
目標を見出しやすい人と苦手な人の大きな違いとして、「実行リスク」の観点の有無が挙げられます。
初歩的な再確認ですが、目標は達成すべきものです。
これは当たり前の話なのですが、目標を立てづらい人は失敗にもルーズで、”目標達成”自体がほぼお題目化しています。
達成できないことに対して淡白すぎる難点があります。
目標設定が得意な人は、達成できないことを許容しません。
そのため、達成できない可能性、つまり「実行リスク」を計画段階から細かくコントロールしています。
制御方法のひとつは、目標を1点ではなく複数の目標のつながった線として描くことです。
達成までの道すじを分解し具体的なストーリーとして検討することで、リスクの所在が明確になり、また、目標全体が一挙に崩壊する事態を避けられます。
実行リスクの評価でもう1つ特徴的な視点は、自律/他律をきびしく区別していることです。
目標の中に他律要素、つまり自分ではなく外部要因で決まる過程がどのように含まれるか?を念入りに確認しています。
他律要素に対しては楽観的な見通しは厳禁で、厳しい展開を予測したうえで自律的に作用できる努力でクリアできるのか?を検証します。
目標水準を下げることなく実現可能性を高めるためには、この思考プロセスが欠かせません。
目的意識を高めるには手間が不可欠
このように、目標を決めるには探索と検証の繰り返しが必要になり、その手間がかかっている様子を古人は「深謀遠慮」と名付けたのです。
この思考プロセスをたくさん繰り返しているうちに、無意味な目標のパターンが記憶に定着し、検討することなく破棄できるようになります。
目標を見出しやすい人は、ダメな目標を的確に無視できる能力が身に付いているため、誰が見ても意義のある目標に素早くたどり着けるのです。
その様子を他人が眺めると「良い目標を思いつく」ように見えるかもしれませんが、実際には短時間のうちに探索&検証を実行しています。
目標設定を苦手とする人が多いのも、それほど手間をかけるべきものと捉えられていないことから、手順の入口をつかめずにいるものと考えられます。
目的意識を強くするには、セオリーに沿って練習を積み重ねることが重要です。