部下がうつ病になった時の兆候と正しい対応

「部下の様子が何やらおかしい……」このように管理職として緊張する瞬間は珍しいものではありません。兆候の段階で気づけたのであれば、適切な対応の余地もあります。

会社には「安全配慮義務」と「労働安全衛生法」により、従業員の心身の健康管理に責任があります。この段階で重要なことは、その従業員がうつに該当するかどうかを判断するのは医者であるという原則を理解して動くことが上司の責任だということです。

チーム全員がうつ状態、ということであればともかく、特定の従業員のメンタル不調については、うつになったかどうかではなく、その状況に適切に対応できたかどうか?が問われます(後述「間違った初期対応とは」参照)。

うつになった時の初期症状

人はうつになると、行動・様子に変化が表れます。

日頃から目を配って変化に気づくことがはじめの一歩です。
もし自分が気づけなくても、他の部下や従業員から変化を心配する声があったら気に留めておきましょう。

次のリストを見て思い当たるものがないか、まずはチェックを。

チェックポイント 解説
check周囲との交流を避けるようになった 同僚など社員同士のコミュニケーションが減ります。飲み会に参加しなくなったりランチを一緒にとらなくなったり単独行動が増えます
check遅刻・欠勤が増えた 事前に予定した休みでなく、前日の夜や当日といった急な連絡が増えます。特に月曜日は要注意
check仕事のミス・トラブルが増えた 業務上でケアレスミスやコミュニケーション不良によるトラブルが増えます
check声が小さくなった、あいさつをしなくなった、笑わなくなった 姿勢も猫背気味になり、顔もうつむきがちになります。また、表情が暗くなったり、無表情になったりします
check身なり・服装が乱れてきた 男性は髪型・スーツやシャツのしわ、ひげ、爪、靴、女性は髪型、化粧、アクセサリーの有無、爪に表れます
check食欲や体型が極端に変化してきた 拒食、過食両方ともあります。就業中の間食が増えたら要注意
check記憶力が著しく低下した うつ病になると認知機能が低下するため、本当に記憶にないのか疑うほど忘れっぽくなります
checkいつも疲労しているように見える 夜に寝付けない、眠りが浅いといった睡眠障害に陥り、疲労が抜けなくなります

うつになりやすい人とは

うつになりやすい人は、ストレスに敏感です。

不安を感じて内面でグルグルと悩んだり、仕事や人間関係といった外部から影響を受けてストレスを感じます。

以下のようなキャラクターに該当していた場合には、「念のため」という意識でより安全策をとるようにしましょう。

<内面グルグル>
・真面目で頑張り屋
・心配性、不安症でネガティブな発言が多い
・過去の失敗を引きずりやすい

<外部から影響>
・極度の上がり症
・動揺しやすい、落ち込みやすい
・感情の変化が激しい

間違った初期対応とは

もし部下がうつになったら正しい対応をして「部下の早い快復」と「会社・自分の責任の軽減」をしましょう。誤った対応をすると悪化し、最悪の場合は企業側の賠償問題に発展してしまいます。

次の対応をしないように気をつけてください。

チェックポイント 解説
thumb_down 頑張れと励ます 仕事の成果が目立って落ちるため、差が離れないように、または部署の目標を達成するために奮起を促してしまい、本人のストレスが増大します
thumb_down ミスを追及する 目についてしまい、他の部下の手前見逃すわけにはいかないと考えて、質問責めにしてさらに追い込んでしまいます
thumb_down 特別扱いをする 良かれと思っての対応ですが、本人は「上司や周囲の人たちに迷惑をかけてしまっている」と感じ、さらにプレッシャーがかかってしまいます
thumb_down 判断・決定をさせる 「君はどうしたい?」「この仕事はあなたに任せた!好きにして良いよ。」と一見優しそうに見える流れですが、判断力が低下しているうつの人にはプレッシャーでしかなく、症状を悪化させます

正しい対応でダメージを最小限にする

チェックポイント 解説
check専門部署と連携 総務や人事、労務といった社内の専門部署にいち早く情報を共有し連携しましょう。
管理職であるあなただけでは情報収集、対処の両面で時間が足りません。ただし、部下に悟られると逆効果となるため、慎重な行動を
check専門家のところに一緒に行く うつ病患者は、自分が病気であることをなかなか認めません。そのため、産業医や医師・カウンセラーなどの専門家の診療を受けたがりません。
一緒に話しに行くことで納得させ受診させましょう。
check部下の気持ちに沿う環境にする うつだからと、仕事を取り上げてしまうと逆効果。勝手に決めつけずに、うつ状態にある部下からよく話を聞きましょう。仕事内容や働き方、ポジションなどの負担をどう軽減するかを決めます
check抽象的な表現を避ける 指示や注意が抽象的で曖昧だと迷い、動きが止まったり間違った行動をとったりします。
その点で考える仕事は避けた方が良く、ルーティンワークを任せるか、やる事が明確な仕事が良いでしょう。身体を動かす仕事も脳がスッキリして達成感もあり快復を早めます

再発防止策は

マネージャーとしての自身の言動と、構造的な問題を切り分けて考えることが大切です。
まず日ごろの指導に、威圧的と受けとられる言動がなかったかを振り返ってください。とくに他の部下と接し方が違ったのであれば、マネジメント上の責任ととられる可能性があるため改めましょう。

多くの場合、仕事うつは本人のストレス耐性が仕事の負荷とマッチしていないことが根本的な原因です。
個々人のストレス耐性は、ビッグファイブの5大性格特性の1つ「情緒安定性」(または神経症傾向)として大きなレベル差があることが、心理学の性格研究で明らかになっています。 そして、その水準は大きく変わることはありません。

職場うつの従業員が出るということは、その仕事のストレス水準が比較的高いことを示唆しています。

## 職場うつの根本的な問題 個々人のストレス耐性が仕事のストレスに負ける * 一定の割合で発症する * 問題ない人もいる --- ## 思いつめる傾向の強い性格 性格特性は科学標準のBig-5で分析できる 「神経質」かつ「まじめ」という類型がある * 神経症傾向: ストレスを感じやすい度合い * 信頼性: まじめさの度合い --- ## 職場うつの予防策 採用・配置で個々人のストレス耐性を測る必要 * 仕事固有のストレス水準は変えられない(環境依存) * 性格も変わらない --- ## うつ防止の構造的ネック 日々の業務と採用・配置が切り離されている企業が多い * 実効策は人事プロセスが握る * ラインのマネージャーが矢面に立つ * トラブルと発生源の乖離による無力化 --- ## ビッグファイブで分析 性格を可視化するオンラインツール「[Decider®](/biz/)」 * 社内サーベイ・配置最適化 * 採用適性検査

トラブルの予兆は氷山の一角であり、採用段階でストレス耐性を見極めることが根本的な再発防止策です。

トラブルをきっかけに、自社の人事管理上、個々人のパーソナリティを適切に把握する努力をしているか、本当に機能しているのか、再確認することが推奨です。
防衛システムを持たない限り、中間管理職がリスクの矢面に立たされる状況は続きます。

まとめ

厚生労働省は、うつ病を誰でもかかりうる病気ととらえています。
長時間勤務(特に残業時間)、人間関係、仕事内容と能力のミスマッチ、仕事量が多い、相談者がいないといった条件によりリスクが高まります。

既存のメンバーについてもストレス耐性のレベルを把握しておくことで、本人にとって過負荷になる危険を上手に避けることが可能になります。

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