大手企業と中小企業・ベンチャー企業の管理職はここまで違う

同じ管理職でも、大手企業と中小企業ではその実態が大きく異なるのをご存知ですか?

「課長」「部長」など言葉の示す意味は同じですし、果たすべき役割も定義も変わらないのに、その実態となるとなぜかかなりの相違点があります。
大手と中小、どちらにもメリット・デメリットがあり、どちらの方がいいということは言えないのですが、

「管理職の仕事が嫌なわけではないけれどなんとなくしっくりこない・・・」
「自分の考えている管理職の像とどこか違う気がする・・・」

という方はもしかすると、会社規模による体質の違いで違和感を覚えているのかもしれません。

管理職は、自分のキャリアについては将来を見据えた特に慎重な判断を要します。
肌が合わないという程度の理由で転職を考えることは少ないですが、よくも悪くも大きな転機にはなるでしょう。
既に転職を考えている方はもちろん、現職で行き詰っている方、会社側の事情でくすぶっている方など、ひとつの参考になれば幸いです。

1.大手企業の管理職・マネジメント層の実態

まずはじめに、「大手企業の管理職ってどんな感じ?」という疑問にお答えしましょう。

大手企業の管理職に求められるのはひとえに「マネジメント能力」といえます。
なぜなら大手企業のマネージャー層は、会社規模の分だけ管理する対象が広く、かつスケールの大きな判断を要する仕事をしているためです。
組織に属する人数も多く、中小企業における管理職のイメージとは一線を画しているといえます。

なお、管理職の役割については 【管理職とは】管理職の役割と仕事内容│課長・部長の責任と権限 でより詳しく解説しています。

課長は課の指揮監督のほか、一部実務も

まず課長についてですが、大手企業ほどの規模になると課長の手前に係長や課長代理がいます。
通常業務では、課のメンバーをそれぞれ割り当てられた課長代理がリーダーとなってチームを統括し、業務を進めることがほとんどですが、リソースが不足しているときなどには課長自身も現場に出ることはあります。

ただし、課長代理の日常業務のうち70%を実務が占めるとすれば、課長では20%程度というところでしょうか。従って、課長の仕事は自分が組織長を務める課全体の指揮監督や決裁業務、課員の指導育成・評価など、マネジメントにあたる業務が8割ということになります。

部長にあがってくるのは「困った」案件のみ

さて、部長になるとまただいぶ様相が変わってきます。

大手企業の部長は実務に従事することはまずなくなり、社内の政策的なことに携わる時間がほとんどです。
重要な社内会議にも出席しますし、事業の方針や戦略に関して役員との間ですり合わせなども必要になります。また、そのすり合わせの内容を自部門に下ろしていくことも部長の大事な役割ですが、これを「どう下ろすか」「誰に下ろすか」といった点が非常に重要です。

部の運営にあたっての戦略を常に練っているのが部長の日常で、自部門内のどの案件がどう動いているか、報告を受けたり自ら情報を求めたりを通じての進捗管理、計画と実績の分析など、考えなければならないことが山積み。

そんな中、部長に話があがってくるのは「困った」案件のみだったりもします。
ほとんどの業務が課長までで完結する中、部長にあがってくるということはつまりお客さまとの間で何かトラブルがあったか、非常に難しい問題を抱えているかのどちらかなのです。
したがって、部長は常に「難しい問題」を抱えているものなのであって、精神的・肉体的なタフさもかなり要します。

役員は24時間365日仕事をしている

最後に役員(取締役)についてですが、役員はもはや24時間365日仕事をしているといっていいでしょう。

担当役員としていくつかの部を受け持ち、それらの部門の管理を行うのです。
大手企業では一部署の人数が100名にものぼることも珍しくなく、そのスケールの部署を複数管理するのですからその忙しさたるや、想像に難くありませんね。

とはいえ、役員ともなると全ての案件を常に把握することは無理というもので、必要があるときには時間が限られた中で部長からの報告を受け、少ない情報から全体像を把握することが必要になります。
取締役は自身の管掌する範囲や行っている業務、計数管理の内容について必要な事柄を取締役会に報告する義務もあるため、常に広い視野と高い視点を持って業務に臨んでいるわけです。

2.「中小・ベンチャー企業の方が裁量権が大きい」は本当か

さて、ここまで大手企業の管理職について簡単に説明してきましたが、それぞれのポジションに応じた裁量はどのくらい持っていると思いますか?
「中小・ベンチャー企業だから裁量権が大きい」とはよく聞く話ですが、それでは大手企業の管理職は中小企業よりも権限が限られているのでしょうか。

実際に大手と中小を見比べてみると、意外な実態が見えてきます。

大手企業では全ての「決裁」の95%が部長までで決まる

まず大手企業を見てみましょう。
大手企業では組織もルールもかなり厳格に決められていて、管理職の中でも中間管理職などは全く自由がきかないように思われています。

実は企業活動における「決裁」のうち、実に7、8割方のことが課長の決裁までで片付いてしまっているのです。
部長に判断を仰ぐわけでもなく、当然社長に話を持っていくわけでもありません。課長自身の判断でそこまで決められるのです。

え?じゃあ部長は?と思うかもしれません。
課長のところで決裁されていない残りの2、3割が存在するわけですが、その半分程度が部長の決裁で完了します。

つまり、企業活動において判断が必要とされる決裁事項のうち、実に95%程度が課長・部長の決裁で決まってしまうのです。

最後に残った5%を役員や経営会議・取締役会などの重要な意思決定機関が担います。
従って、大手企業では中小企業のように「社長が決める」ようなことは事案の数で見る限り、ほぼないのです。

大手企業が権限移譲をせざるを得ない理由

以上のような大手企業の決裁の仕組みは、「権限移譲」がなされていることで実現しています。
会社における決裁権限は、その重要度に応じて株主総会から順に下位組織に委譲されているわけですが、なぜ大手企業では課長・部長にそこまで判断をゆだねることができているのでしょうか。

そうせざるを得ない*からです。

大手企業は組織が大きすぎるため、ポジションが上に行けば行くほど個別の案件の細かい事情については把握できなくなります。
そうなるとかえって実質的な判断ができませんし、組織の大きさゆえに一人ひとりの管理職の管掌する範囲が非常に広いため、例えばあまり重要でない事柄でも部長が判断しなければならないということになると部長がパンクしてしまうのです。

また、多くの大手企業は上場していたり、そうでなくても社会責任が高まっているもの。
そうなるとコンプライアンスの徹底がとても重要な会社としての責務となるため、「決めたことは決めたとおりに進める体制」(社内規程に定められた通りに決裁等が行われている状態)を確実に維持する必要があります。

つまり、権限移譲をすることで正常な組織の運営を保っているのが大手企業なのです。

実は中小企業の中間管理職には裁量権はほとんどない?

それでは、「裁量権が大きい」と言われている中小企業ではどうでしょうか。
確かに、中小企業の方が社長や経営層との距離が近く、意見などを自由闊達にボトムアップで発信できる風土――― いわゆる「風通しが良い会社」であることが多いです。

ただし、実際の決裁となると事情は違ってきます。
オーナー社長、創業社長のいる会社で特に顕著なのですが、意見交換は自由にできても何をするにも最後には社長承認が必要だったりするのです。

というのも、中小企業では「決裁」においてホンネとタテマエが存在します。
組織・制度が比較的整っている中小企業で、社内規程などで部長や課長が決裁できる範囲が定められている場合でも、実際にはその部長や課長が「決裁」する前に社長の確認を取ることが暗黙のルールになっていたり、逆に社内規程通りに部長や課長の一存で何かを決定したら社長が「俺は聞いてない」と言って決裁をひっくり返したり・・・そんなことが日常茶飯事という会社も多いのです。

このように、中小企業では「決めたことは決めた通りに進める」大手企業とは毛色が異なる運用がなされていて、部長や課長に与えられた実質的な「権限」は少ないのです。

「裁量権が大きい」と言われていても実際には逆なのかもしれませんね。

3.大手企業向きの管理職とそのメリット

ここまで大手企業・中小企業それぞれの特色について軽く触れてまいりましたが、それぞれ運用に違いがあるので、当然のことながら所属する管理職にもカラーの違いが出てきます。

大手企業の管理職は自分の責任と権限をきちんと理解し、定められた通りに動くことが得意な人が向いているでしょう。
ルールを曲げることができないので、多少「堅い」部類に入る方でないと窮屈な思いをするかもしれません。

また、会社自体が大きいため、ひとりひとりの管理職が管掌する組織の規模(部員の人数)も必然的に大きくなり、高いマネジメント能力が必要とされます。マネジメントに特化した仕事が多くなるので管理能力が問われる場面が圧倒的に多くなり、プレイヤーとしての能力にはあまり着目されなくなるでしょう。

ただし、実務面の大部分を課長・部長までの管理職が担うことになるため、形式的にも実質的にも現場を仕切ることになります。
現場を自分の采配で動かすことができるのは魅力でもありますが、幅広い権限を付与される代わりにそれに伴う責任も大きくなるため、いざというときには腹を括って自分が全てを背負う覚悟で決断を下すことができる力が必要になります。

その責任の重さゆえ、ということもあり、給与面では大手企業の管理職の方が中小企業の管理職よりもかなり恵まれているといえます。
なお、取り扱う仕事も取引先もスケールが大きいため、自然と視点が高くなり視野が広がるのもメリットです。

4.中小・ベンチャー企業向きの管理職とそのメリット

中小・ベンチャー企業の管理職は大手企業の管理職とは様々な面で対照的です。
事業の内容・方針・方向性、社内の運用ルールなど含め、色々なことが流動的に進められる中小・ベンチャー企業の管理職は、逆にルールに縛られない柔軟な思考が必須。
先ほどお話ししたホンネとタテマエが混在する運用において、どんなときでも予め定められた方針や社内規程に忠実にものごとを進めるような姿勢では、中小企業ではなかなか評価されないものです。

また、中小・ベンチャー企業の管理職はプレイングマネージャーであることが求められる場合が多いため、現場でも自ら営業活動などの実働に携わることや、部下の作成する資料や書面のチェックの傍ら、自ら書類を作成するようなことも珍しくありません。
さらには、会社の規模からも部下との距離が非常に近く、部下の見る目もより厳しくなりがちです。プレイヤーとしての能力がない、あるいは熱意が見られないような管理職は小規模の会社においては部下からの信頼を得づらく、部下の誰よりも働くスタンスを持っている管理職が多かったりもします。

なお、中小企業の管理職には実質的な裁量権が少ない、というのは先ほど述べたとおりですが、その反面、大手企業ほど大きな責任を求められないという側面もあります。
もちろん、自身の部門を代表して動くわけですから対外的に責任を負うことには変わりないですが、最終的には社長やナンバーツー、ナンバースリーが必ず後ろ盾になっていることが多くみられます。

また、中小企業で管理職となるメリットはやはりなんといっても経営者に近く、直接会社経営に携わることができる場面が多々あること。
成長企業であれば会社が大きくなっていく様がありありと感じられますし、自分の意見が会社の方針や方向性に与える影響も大きくなり、達成感が得られることでしょう。

ただし、「井の中の蛙」にならないよう注意が必要です。
実際には社長がすべてを動かしているにもかかわらず、「自分は管理職である」「自分は経営に関わっている」という思いから、知らずと自分の社会的ステータスを見誤ることも。

担う責任と権限のレベルから言えば、中小企業における部長・執行役員クラスでやっと大手企業の課長くらいであると言われています。外にはより大きな世界があることを忘れないようにしたいものですね。今すぐ転職でない方は、ビズリーチのような、職歴・履歴書(通称レジュメ)を登録して待つだけのスカウトサービス(自分の所属している会社からは、自分のレジュメ検索できないようになってるようです)でスカウトが来るか試してみるのも一つです。

同じ管理職とはいえど、このように大手企業と中小企業では実際の仕事上のスタンスも、求められる資質も大きく異なるのです。

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