スタートアップ・中小企業に課されたハードル

日本の会社162万9286社のうち、従業員数5000人以上の企業はわずか544社、1000人以上まで含めても3,694社(0.23%)にとどまります。

従業員区分 企業数 構成比
1000人以上 3,694 0.23%
300人以上 10,392 0.64%
100人以上 32,069 1.97%
99人以下 1,583,131 97.17%
※ 出典:経済センサス活動調査 平成28年

起業家精神を発揮してスタートアップを創業する際、創業者1名〜数名から始まり、事業拡大につれて従業員数が増えていきます。
統計上、大多数のベンチャーは最終的に数十名規模の会社になるという法則が上の表から分かります。

中小企業の従業員数の定義は300人または100人であり、ほぼ全ての企業はライフサイクルの長い期間を中小企業として過ごします。

小さい企業ほど人的ロスのダメージが大きい

従業員数の少ない会社ほど、非適職のダメージは相対的に大きくなります。
たとえばストレス耐性の不一致により、従業員1名がうつ病にかかって休職というケースがあります。

従業員数300名の企業では0.3%の業務停止で済みますが、従業員数10名だと10%の影響を受けます。
同様に業務の穴埋めを指数化すると、300名の場合0.3%(=1÷299)、10名の場合11.1%(=1÷9)の超過負担が他の従業員に生じます。

この超過部分は通常業務への追加ノルマとなるため、実行不能な負担となり得ます。
残業規制は年々強まっており「時間をかける」という対策もとりづらくなっています。

また実行できたとしても過重労働への不満が他の従業員の退職の引き金になる展開もあり、スタートアップにとっては致命傷になりかねません。

世代の連続性はさらに難しい

言うまでもなく人の寿命は有限です。
企業がゴーイングコンサーンとして人よりも長く生きのびるには、次の社長、さらにその次の社長が絶えることなく務まらなくてはなりません。

年齢層別の簡易的な昇進モデルを考えると、下表のような構成を想定できます。

年齢区分 役職
50代以上 部門長・上級管理職
40才代 部課長・中間管理職
30才代 主任・現場リーダー
20才代 担当

10年後には部門長級の50代はリタイヤし、部課長級の40代から部門長が選ばれ、新たに20代の新人が入社してくる、というのが自然なストーリーです。

しかし、規模の小さい会社には2つの難点があります。

1点目は、キャッシュフローの波の影響を受けやすいため、採用活動が断続的になりがちであるという問題です。
これにより、組織の年齢構成に大きな偏りが生じやすくなります。

世代に偏りがあると、特定の時期にマネージャーを選べないボトルネックが起きます。これは会社が衰微する直接のきっかけになります。

世代の不均衡をクリアしたとして、もう1点より構造的な問題が残ります。

それは世代あたり人数が少ないことです。
300名の企業では各世代は75名、50名企業では12.5名となります。

各母集団から将来の社長を輩出しなくてはなりません。中高年には心疾患や脳梗塞による急逝リスクがあることを考慮に入れると社長級は少なくとも2名いてようやく健全です。
この観点で、50名の中小企業は300名の企業の6倍厳しく人選する必要があるのです。

「スタートアップは創業メンバーの人選が重要である」と強調されますが、より一般的に企業規模が小さいほど人選の影響を大きく受けます。

一人ひとり丁寧に是是非非で評価すべき

これまでの議論を総合すると、多くの企業は数十名の従業員規模で均衡します。これは経営トップから見て一人ひとりの顔が見える組織にとどまる、ということです。

そして、従業員が定着することで採用が止まる日が来ます。
それまでに人選ミスが起きていた場合、人的資源のロスを修正する機会を失うということです。

非適職による離職は、短期的には企業規模が小さいほど大きなダメージを呼びますが、長期的に見れば組織構成の歪みをやり直す貴重なチャンスになります。

いずれにせよ、採用段階の人選ミスがその後の数十年にわたって尾をひくことになります。
小規模な企業ほど安易な採用により自壊する力学になっています。

幸い人物評価の精度については、心理学におけるビッグファイブ研究の進展により、人が知覚できる人格はDecider®を利用して計測可能になりました。

採用活動の質に活路

人選ミスが許されないトップ戦略コンサルティングファームでは、書類通過後の採用率が5%と言われています。
現役のコンサルティングマネージャーがビジネス活動を止めて、20倍の候補者と採用面接を続けているということです。

スタートアップ・中小企業の難題をクリアするためには同様の施策が必要でしょう。
次の2点が推奨方針です。

  • 採用人数が少ないほど人選の要求は厳しくなるため、相対的に接触人数は多くなければならない。採用ブランドなどを考慮に入れると採用人数1人あたり応募100人程度が目安
  • 企業規模が小さいほど人材の知見に乏しいため、ビッグファイブの人材分析ツールDecider®により、活動を可視化する必要がある。社内分析よりも採用分析の方がサンプル情報が豊富

組織構成については、これ以外に採れる打ち手はないと考えられます。